親密なパートナーからの暴力(IPV)を受ける女性に対するプライマリ・ケア医による簡易カウンセリングは、女性のQOLや心の健康に良好な影響を及ぼさないものの、抑うつ状態の改善がみられたことが、オーストラリア・メルボルン大学のKelsey Hegarty氏らが進めるWEAVE試験の初期結果で示された。WHOは重大な公衆衛生上の問題であるIPVに対する早期介入の場としてのプライマリ・ケアの重要性を支持しているが、IPVを受けていると判定された女性への支援を目的とする医療的介入の有効性に関するエビデンスは十分ではない。WEAVEプロジェクトは、カウンセリングは短期的な暴力の低減を期待するものではなく、それによって女性が自分は支援されていると認識し、虐待について話し合って安心感を得ることで、自己効力感(self-efficacy)の前向きの変化や、安全対策や行動、心の健康、QOLの改善が促されるとの仮説に基づくものだという。Lancet誌オンライン版2013年4月16日号掲載の報告。
簡易カウンセリングのQOL改善効果をクラスター無作為試験で評価
WEAVE試験は、IPVスクリーニングで同定された女性への対処法の訓練を受けたプライマリ・ケア医による簡易なカウンセリングが、女性のQOL、安全対策と行動、心の健康に及ぼす影響を評価するクラスター無作為化対照比較試験(試験プロトコール:
http://www.biomedcentral.com/1471-2458/10/2)。
オーストラリア・ビクトリア州で開業するプライマリ・ケア医と、健康・ライフスタイル調査で過去12ヵ月の間にパートナーによる恐怖を経験したと答えた16~50歳の女性が登録され、次のような介入が行われた。(1)医師の訓練、(2)医師に対する、パートナーによる恐怖経験ありと判定された女性の通知、(3)IPV女性に対する、人間関係や情緒的問題に関する1~6回の講習会への参加の呼びかけ(訓練プログラム入手に関する連絡先:
http://www.gp.unimelb.edu.au/pcru/abuse/resources.html)。
診療地域(都市部、地方)で層別化したのち、医師を介入群または標準治療を行う対照群に無作為化に割り付けた。研究者には割り付け情報がマスクされた。
主要評価項目は12ヵ月後のQOL(WHO Quality of Life-BREF)、安全対策と行動、心の健康(SF-12)とし、副次的評価項目はうつ状態および不安(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADS)、女性や子どもの安全に配慮した医師の問いかけに対する応答、虐待の恐怖について医師と話し合うことによる安心感(5ポイントLikertスケール)とした。今回はフォローアップ期間6ヵ月および12ヵ月の主な知見が報告された。
女性や子どもの安全への配慮、支持的カウンセリングの訓練を受けるべき
52人の医師が登録され、介入群に25人(平均年齢49.3歳、都市部72%、女性56%、グループ診療92%、プライマリ・ケア医としての平均活動年数18.4年)、対照群には27人(46.9歳、70%、67%、100%、16.8年)が割り付けられた。
介入群の女性患者は137人(平均年齢37.9歳、パートナーと同居48%、18歳未満の子どもが同居53%)、対照群は135人(39.1歳、58%、64%)であった。12ヵ月のフォローアップを完遂したのは、介入群が70%(96/137人、医師23人)、対照群は74%(100/135人、医師26人)だった。
12ヵ月後のQOL、安全対策と行動、心の健康は、両群間で差を認めなかった。
不安(12カ月後)および恐怖について話し合うことによる安心感(6カ月後)も両群間に差はみられなかったが、抑うつ状態(12ヵ月後)(オッズ比[OR]:0.3、95%信頼区間[CI]:0.1~0.7、p=0.005)、女性の安全に配慮した医師の問いかけ(6ヵ月後)(OR:5.1、95%CI:1.9〜14.0、p=0.002)、子どもの安全に配慮した医師の問いかけ(6ヵ月後)(OR:5.5、95%CI:1.6~19.0、p=0.008)の効果は介入群で有意に改善した。有害事象は認めなかった。
著者は、「今回の知見は、親密なパートナーからの暴力を開示した女性への、プライマリ・ケア医による簡易カウンセリングに関する今後の研究に有益な情報をもたらすだろう。QOLは改善しなかったものの、うつ症状が抑制されたことから、プライマリ・ケア医は女性や子どもの安全への配慮や、虐待を経験した女性への支持的カウンセリングの仕方に関する訓練を受けるべきと考えられる」と結論している。
(菅野守:医学ライター)