術後肺合併症のリスクがある腹部大手術施行患者では、術中の肺保護的な換気法により臨床アウトカムが改善され、医療資源利用が抑制されることが、フランス・クレルモンフェラン大学中央病院(CHU)付属エスタン病院のEmmanuel Futier氏らが行ったIMPROVE試験で示された。低1回換気量および呼吸終末陽圧(PEEP)による肺保護的な換気法は、重症患者に対する最良の換気法とされるが、麻酔下に大手術を施行された患者における役割は、これまで知られていなかった。NEJM誌2013年8月1日号掲載の報告。
400例を無作為化試験で評価
IMPROVE試験は、肺合併症リスクを有し、腹部大手術を受けた患者に対する肺保護的換気法の有用性を評価する多施設共同二重盲検並行群間無作為化試験。対象は、術前の評価で術後肺合併症リスクが中等度~高度と判定され、2時間以上を要すると予測される腹腔鏡または非腹腔鏡的な待機的腹部大手術が予定されている40歳以上の患者であった。
参加者は、肺保護的換気法(1回換気量:6~8mL/kg、PEEP:6~8cmH
2O、気管挿管後30分ごとにリクルートメント手技を繰り返す)を施行する群または非保護的な換気法(1回換気量:10~12mL/kg、PEEPやリクルートメント手技は行わない)を施行する群に無作為に割り付けられた。
2011年1月~2012年8月までにフランスの7施設から400例が登録された。非保護的換気法群に200例(平均年齢63.4歳、男性60.5%、開腹手術78.0%)、肺保護的換気法群にも200例(61.6歳、58.0%、79.5%)が割り付けられ、30日間のフォローアップが行われた。診断名は約8割ががんであり、手技としては膵頭十二指腸切除術が約4割、肝切除術が約2割、大腸切除術が約2割であった。
7日以内の肺・肺外合併症リスクが60%低下
主要評価項目(術後7日間における肺および肺外合併症の複合アウトカム)の発生率は、肺保護的換気法が10.5%(21/200例)と、非保護的換気法群の27.5%(55/200例)に比べ有意に低かった(調整相対リスク:0.40、95%信頼区間[CI]:0.24~0.68、p=0.001)。術後30日間の発生率は、それぞれ12.5%(25例)、29.0%(58例)であり、やはり有意な差が認められた(同:0.45、0.28~0.73、p<0.001)。
術後7日間に急性の呼吸器不全で非侵襲的な換気や挿管を要した患者の割合は、肺保護的換気法群が5.0%(10例)であり、非保護的換気法群の17.0%(34例)に比し有意に低かった(同:0.29、0.14~0.61、p=0.001)。
術後7日間の肺合併症発生率は、Grade 1/2は肺保護的換気法群12.5%(25例)、非保護的換気法群15.0%(30例)と両群で同等であった(同:0.67、0.39~1.16、p=0.16)が、Grade 3以上はそれぞれ5.0%(10例)、21.0%(42例)であり、肺保護的換気法群で有意に少なかった(同:0.23、0.11~0.49、p<0.001)。
入院期間中央値は、肺保護的換気法群が有意に短かった(11vs. 13日、調整平均差:-2.45日、95%CI:-4.17~-0.72、p=0.006)。ICU入室期間中央値は両群間に差はなかった(6 vs. 7日、-1.21、-4.98~7.40、p=0.69)。
著者は、「肺保護的換気法は腹部大手術を受けた患者の臨床アウトカムを改善し、医療資源利用を抑制することが示された」とし、「予想よりも合併症発生率がわずかに高かったが、これは低リスク例を除外したことなどによると考えられる」と考察している。
(菅野守:医学ライター)