ヘリコバクター・ピロリ(以下、H.pylori)の除菌治療が、健康な無症候性感染者の胃がん発生を予防するのかについて検討した、英国・セントジェームズ大学病院のAlexander C Ford氏らによるシステマティックレビューとメタ解析の結果、アジア人については減少するという限定的で中程度のエビデンスが示されたことを報告した。理論上では、除菌治療により胃がんの発生率は低下するが、報告されているエビデンスは相反するものだった。BMJ誌オンライン版2014年5月20日号掲載の報告より。
6試験をメタ解析
文献検索は、Medline、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trialsを介して2013年12月時点で行われ、また2001~2013年までの学会誌(手動検索にて)、さらに参考文献についても検索した。論文選定では言語は制限せず、
H.pyloriが検査で陽性であった以外は健康な無症候性感染者の成人を対象とし、除菌治療を7日以上行いその後の胃がん発生について効果を調べた無作為化試験で、対照群にプラセボまたは未治療を設定しており、追跡期間が2年以上であった試験を適格とした。
主要アウトカムは、アプリオリに定義した、除菌治療のその後の胃がん発生への効果で、胃がん発生の相対的リスクを95%信頼区間(CI)とともに算出して評価した。
検索の結果1,560件の引用が特定された。そのうち適格条件を満たしたのは6件の無作為化対照試験だった。6本のうち4本は中国で、1本は日本で行われたもので、それ以外の地域で行われた試験は国民の胃がんリスクが高いコロンビアのもの1本だった。試験の追跡期間は、最長が14.7年、最短でも4年以上だった。
胃がん発生相対リスクは0.66に、NNTは中国人男性で最も少なく15例
6試験の最終追跡時点データをプール解析した結果、胃がん発生例は、除菌治療を受けた健康な無症候性感染患者3,294例では51例(1.6%)であり、対照群3,203例では76例(2.4%)で、相対リスクは0.66(95%CI:0.46~0.95)だった。試験間の不均一性はみられなかった(I
2=0%、p=0.60)。
同結果に基づく胃がん1例を予防するために必要な治療数(NNT)は、全体では124例(95%CI:78~843例)だったが、被験者の国別生涯リスクで検討した場合のNNTは、中国人男性で最も少なく15.1例、一方で最も多かったのは米国人女性で245.1例であった。なお日本人は男性15.3例、女性23.0例だった。
そのほか除菌治療の影響について、食道がん発生(評価が行われていたのは1試験のみ)が治療群0.2%(2/817例)、プラセボ群0.1%(1/813例)(p=0.57)であったこと、また、胃がんによる死亡に関しては3試験の評価で、治療群1.1%(24/2,242例)、プラセボ群1.6%(36/2,233例)であったこと、全死因死亡への影響については4試験の評価(各試験の追跡期間は6~14.7年)で、治療群7.3%(192/2,639例)、プラセボ・未治療群6.7%(175/2,614例)の発生であったことが報告されている。
有害事象についての報告は1試験のみ単独論文で報告をしていた。発疹を除外すれば、治療群3.1%、プラセボ群0.1%であり統計的な有意差は認められなかったという。