急性外傷性脳損傷のアウトカム改善に、プロゲステロン投与はプラセボと比較して、ベネフィットが認められないことが示された。米国・エモリー大学のDavid W. Wright氏らが、第III相の無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、報告した。これまでに、外傷性脳損傷へのプロゲステロン投与については、複数の実験モデル検討や2件の単施設臨床試験で、神経学的アウトカムを改善することが示されていた。本検討では、大規模な多施設での検討により、プロゲステロンの早期投与の有効性を、重度、中等度~重度、中等度の急性外傷性脳損傷について調べることが目的であった。NEJM誌オンライン版2014年12月10日号掲載の報告より。
重度、中等度~重度、中等度のTBI患者882例を無作為化
試験は、2010年4月5日~2013年10月30日に、米国内49の外傷センターで行われた。被験者は、重度/中等度~重度/中等度(グラスゴー・コーマ・スケール[GCS]:4~12、全体スコアは3~15で低スコアほど低意識レベルを示す)の急性外傷性脳損傷(TBI)患者で、プロゲステロン投与群とプラセボ群に無作為に割り付けられた。外傷後4時間以内に試験治療を開始し、総計96時間の管理投与を行った。
主要アウトカムは、受傷後6ヵ月時点のExtended GCI(GCS-E)で評価した機能回復。副次アウトカムは、死亡率、障害評価尺度(Disability Rating Scale)スコアなどだった。
試験の主要目的は、プロゲステロン群の有効性で、アウトカムの改善を示した患者の割合がプラセボ群よりも絶対値で10%増大した場合と定義した。アウトカム改善は、当初の外傷重症度により定義した。例えば、中等度の患者(GSCスコア9~12)が6ヵ月時点でGSCスコア7超であった場合、アウトカムの改善とみなすなどとした。
検討では、有効性の評価のためには総計1,140例の被験者を無作為化する必要があると推算していた。しかし882例を無作為化した時点で、主要アウトカムに関してプロゲステロンの無益性が明らかになったとして試験は終了となった。
プロゲステロン群で静脈炎の頻度が有意に増大
882例の試験群(プロゲステロン群442例、プラセボ群440例)のベースライン特性はバランスが取れたものだった。年齢中央値35歳、男性73.7%、黒人15.2%、外傷重症度スコアの平均値は24.4(スコア範囲:0~75、高値ほど重症度が高い)であり、外傷理由で最も多かったのは自動車事故だった。
分析の結果、プロゲステロン群でアウトカム改善を認めたのは51.0%であった。一方プラセボ群は55.5%で、プロゲステロンの相対的ベネフィットは0.95(95%信頼区間[CI]:0.85~1.06)であった。有意差はなかった(p=0.35)。
死亡率は、試験群全体では6ヵ月時点で17.2%であり、中等度外傷群13.0%から重度外傷群27.6%の範囲にわたっていた。投与管理群別では、プロゲステロン群18.8%(83/442例)、プラセボ群15.7%(69/440例)で、ハザード比(HR)1.19(95%CI:0.86~1.63)で有意差は認められなかった。
プロゲステロンの安全性プロファイルは許容できるものであったが、静脈炎または血栓性静脈炎の発生が、プロゲステロン群(17.2%、76/442例)がプラセボ群(5.7%、25/440例)よりも有意に高頻度であった(相対リスク:3.03、95%CI:1.96~4.66)。そのほか事前規定の安全性アウトカムについては、両群で有意差はみられなかった。
(武藤まき:医療ライター)