低酸素性虚血性脳症(HIE)の新生児に対して72時間/33.5℃の低体温療法を行うと、死亡や機能障害が44~55%低減することが報告されているが、動物モデルでは冷却期間がより長く、冷却体温をより低くするほど良好な神経保護作用が得られる可能性が示唆されている。そこで、米国・ウエイン州立大学ミシガン小児病院のSeetha Shankaran氏らは、より強力な低体温療法の有用性を検討したが、アウトカムの改善は得られなかった。JAMA誌2014年12月24・31日号掲載の報告より。
4種の低体温療法の安全性を無作為化試験で評価
研究グループは、HIEの満期出産新生児において、72時間/33.5℃の低体温療法と、より低い体温を長期間持続するアプローチの有用性を比較する2×2ファクトリアルデザインの無作為化試験を実施した[国立衛生研究所(NIH)、ユニス・ケネディ・シュライバー国立小児保健発育研究所(NICHD)などの助成による]。対象は、在胎週数36週以上、呼吸努力が不良で蘇生の必要性があるか、または中等度~重度の脳症の診断で生後6時間以内に新生児集中治療室(NICU)に入室した新生児であった。
被験者は、72時間または120時間の低体温療法を行う群に無作為に割り付けられた後、それぞれ体温を33.5℃または32.0℃まで低下させる群に割り付けられた。最初の50例を登録した後、独立のデータ・安全性監視委員会により安全性(不整脈、持続性アシドーシス、大血管の血栓症と大出血、NICU内死亡)の評価が行われ、その後は25例を登録するごとに同様の評価を繰り返した。
今回の解析は安全性およびNICU内死亡に焦点が絞られ、72時間と120時間、33.5℃と32.0℃を比較した。主要評価項目は18~22ヵ月時の死亡および機能障害であった。
NICU内死亡:72時間11%、120時間16%、33.0℃ 12%、32.5℃ 16%
2010年10月~2013年11月までに、ユニス・ケネディ・シュライバーNICHDの新生児研究ネットワークに参加する米国の18施設に364例が登録され、72時間群に185例、120時間群には179例が、また33.5℃群に191例、32.0℃群には173例が割り付けられた。出生時体重が33.5℃群に比べ32.0℃群で有意に(p<0.02)重かったことを除き、患者背景に差は認めなかった。
NICU内死亡率は、72時間/33.5℃群(95例)が7%(7例)、72時間/32.0℃群(90例)が14%(13例)、120分/33.5℃群(96例)が16%(15例)、120分/32.0℃群(83例)は17%(14例)であった。
また、72時間群のNICU内死亡率は11%、120時間群は16%で、72時間群に対する120時間群の補正リスク比(RR)は1.37(95%信頼区間[CI]:0.92~2.04)であり、有意な差は認めなかった(p=0.12)。一方、33.0℃群のNICU内死亡率は12%、32.5℃群は16%で、補正RRは1.24(0.69~2.25)であり、やはり有意差はなかった(p=0.47)。
院内死亡または体外式膜型人工肺(ECMO)の適用(冷却時間別の補正RR:1.33、p=0.09、冷却体温別の補正RR:1.35、p=0.22)および治療開始120時間以内死亡(1.36、p=0.31、1.59、p=0.21)にも有意な差はなかった。
安全性のアウトカムは、72時間と120時間群、33.5℃と32.0℃群でいずれも類似していたが、大出血の頻度が72時間群3%、120時間群1%と有意差が認められた(補正RR:0.25、0.07~0.91、p=0.04)。無益性解析(futility analysis)では、より長期、より低い体温に冷却するとNICU内死亡率が2%低下することが確認された。
著者は、「低体温療法を72時間/33.5℃以上に強化しても、HIE新生児のNICU内死亡は改善されなかった」とまとめ、「これらの結果は、治療法や今後の試験のデザインに影響を及ぼす」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)