前糖尿病状態を早期に発見し生活様式を改善することで、膵がんの発症が抑制される可能性があることが、国立台湾大学医学院のWei-Chih Liao氏らの検討で示された。膵がんは、最も致死性の高いがんであり、2型糖尿病はその確立されたリスク因子である。2型糖尿病の前駆病態である前糖尿病は、膵がんのリスク因子である可能性があり、生活様式の変更によって改善することから、膵がんの予防戦略として関心を集めている。BMJ誌2015年1月2日号掲載の報告。
量-反応関係を前向き研究のメタ解析で評価
研究グループは、血糖値と膵がんリスクの量-反応(dose-response)関係の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を行った(National Science Council in Taiwanなどの助成による)。
2013年11月30日までに発表された文献を検索し、血糖値と膵がんの関連を検討したプロスペクティブ研究を選出した。逆因果関係を回避するためにレトロスペクティブ研究や断面研究は除外した。
2人の研究者が別個に、選定された文献から関連情報を抽出し、研究の質はNewcastle-Ottawaスケールで評価した。線形および非線形モデルによる量-反応関係を評価するために、ランダム効果を用いてメタ解析を行った。
10mg/dL上昇ごとに膵がんが14%増加
9試験(日本の1試験、日本も参加したアジア・オセアニアの1試験を含む)に登録された膵がん患者2,408例が解析の対象となった。
線形モデルによる解析では、空腹時血糖値と膵がんの発症率には、前糖尿病状態から糖尿病患者まで、強い量-反応関係が認められたが、非線形モデルでは有意な関連はみられなかった。
空腹時血糖値が4.1~10.6mmol/L(73.8~190.7mg/dL)の患者に関する率比の統合解析では、空腹時血糖値が0.56mmol/L(10mg/dL)上昇するごとに、膵がんの発症率が14%増加し(率比:1.14、95%信頼区間[CI]:1.06~1.22、p<0.001)、有意な異質性は認めなかった。
また、糖尿病のカテゴリーに相当する血糖値(>7.0mmol/L[126mg/dL])の患者を除外した感度分析でも同様の結果が示された。すなわち、0.56mmol/L(10mg/dL)の上昇ごとに膵がんは15%増加した(率比:1.15、95%CI:1.05~1.27、p=0.003)。これにより、前糖尿病と膵がんの強い関連が示唆された。
なお、女性では空腹時血糖値と膵がん発症率に有意な関連を認めたものの、男性においては有意ではなかった(0.56mmol/L[10mg/dL]上昇ごとの膵がん発症の率比、女性:1.17、95%CI:1.07~1.29、p=0.001、男性:1.05、0.99~1.12、p=0.13)。
著者は、「前糖尿病状態は生活様式の改善により治癒する可能性があるため、早期発見と生活様式の改善に向けた介入が、膵がんの発症増加を抑制する実効性のある戦略となる可能性がある」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)