臨床試験のスポンサー(製薬会社)は、米国FDAが薬剤の市販申請を承認しない理由を伝える審査完了報告通知(complete response letter:CRL)の内容の多くを、プレスリリースには反映していないことが、FDA公衆衛生戦略解析事務局のPeter Lurie氏らの検討で明らかとなった。FDAは、規制機関がスポンサーからの市販申請を承認しないと決定した場合に、その理由をCRLでスポンサーに伝える。スポンサーは、CRLの内容を含むプレスリリースを公表してよいが、必須ではない。一方、これらのプレスリリースは、FDAの決定および非承認の論拠に関する公開された唯一の情報源となることが多いという。BMJ誌オンライン版2015年6月10日号掲載の報告。
7ドメインに関するステートメントの一致を評価
研究グループは、FDAが非承認の理由を記載してスポンサーに送付した非公開のCRLと、これを基にスポンサーが報道機関向けに公表したプレスリリースの内容を比較する横断的研究を実施した。
2008年8月11日~13年6月27日の間に、FDA医薬品評価研究センター(CDER)が発行した61通のCRLと関連プレスリリースに含まれる個々のステートメントを、7つのドメイン(64のサブドメイン)に分類し、両者の一致を評価した。
ステートメントとは、特定の不備に関する記述であり、7つのドメインは、「一般事項」「有効性」「安全性」「臨床薬理学」「非臨床的研究」「化学的性質・製造過程・製品管理」「用法表示」であった。プレスリリースのステートメントが、CRLのステートメントと同じ問題を扱っている場合に「一致」と判定した。
CRLの内訳は、新薬が79%(48通)、生物学的製剤が21%(13通)であり、希少疾病用薬(オーファンドラッグ)が28%(17通)、優先審査対象薬が20%(12通)、画期的医薬品(ファーストインクラス)が33%(20通)含まれた。
非公表率18%、完全一致は2通、ステートメント一致率14%
CRLの48%(29通)が、安全性および有効性の双方の不備を指摘しており、双方ともに不備がないとしたのは13%(8通)だけであった。
CRLの18%(11通)についてはプレスリリースが発行されておらず(非公表)、21%(13通)のCRLのプレスリリースはCRLのステートメントとまったく一致しなかった。そのほか、ステートメント一致率1~25%が39%(24通)、26~50%が11%(7通)、51~99%が7%(4通)で、完全に一致したのは2通のみだった。
61通のCRLから687件のステートメントが同定された。1通当たりのステートメント件数中央値(範囲)は8件(1~38)であった。最もステートメントの多いドメインは有効性(191件)で、次いで安全性(150件)であり、2つを合わせると全ステートメントの約半数を占めた。
687件のCRLステートメントのうち、プレスリリースと一致したのは93件(14%)であり、残りの594件(84%)はプレスリリースでは除外されていた。一致したステートメントのうち有効性に関するものが16%(30件)で、安全性は15%(22件)だった。
安全性または有効性に関して新たな臨床試験を求めたCRLが32通あり、この事実に触れたプレスリリースは59%(19報)であった。また、7通のCRLが、治療を受けた参加者の死亡率が高いことを指摘していたが、この事実に言及したプレスリリースは1報だけだった。
著者は、「FDAは一般に、CRLで複数の非承認の理由を挙げており、そのほとんどは安全性もしくは有効性の不備に関するものであった。多くの場合、プレスリリースそのものが発行されておらず、公表された場合でも、CRLのステートメントの多くが除外されていた」とまとめ、「プレスリリースは、CRLに含まれる詳細な情報の代替手段としては不完全である」と結論付けている。
(菅野守:医学ライター)