セカンド・オピニオンにより、乳房の病理組織の診断精度が統計学的に有意に改善することが、米国・ワシントン大学のJoann G Elmore氏らの検討で示され、BMJ誌オンライン版2016年6月22日号に掲載された。病理医による乳房生検組織の解釈には大きなばらつきがみられ、患者に害が及ぶ懸念があるとされる。乳房生検の2回目の評価では、統計学的に有意な初回診断からの変更が、患者の10%以上にみられることが報告されているが、誤判別を防止するアプローチとしてのセカンド・オピニオン戦略を系統的に比較した研究はこれまでないという。
115人の病理医で12の戦略を評価するシミュレーション研究
研究グループは、セカンド・オピニオン戦略が乳房の病理組織の診断精度の改善に及ぼす影響を検討するシミュレーション研究を行った(米国立がん研究所[NCI]などの助成による)。
対象となった12のセカンド・オピニオン戦略は以下のとおりであった。(1)すべての生検標本でセカンド・オピニオンを実施、(2)初回診断に基づいて実施(異型/非浸潤性乳管がん[DCIS]/浸潤性、境界型/解釈が困難、病理医の希望/方針が求める要件)(8戦略)、(3)病理医の乳房生検の臨床経験(経験豊富:平均10標本/週以上、経験が乏しい:平均10標本/週未満)に基づき2~3回の判定を実施(3戦略)。
115人の病理医が240個の乳房生検標本(各標本につき1つのスライド)の判定を行い、専門医の合意による標準的な診断(レファレンス)と比較した。個々の病理医および12のシミュレートされたセカンド・オピニオン戦略において、過大解釈(over-interpretation)、過小解釈(under-interpretation)、誤判別(misclassification)の評価を行った。
240個の生検標本には、異型を伴う良性病変が30%(非増殖性10%、増殖性20%)、異型が30%、DCISが30%、浸潤性が10%含まれた。
浸潤性の場合のみ行う戦略を除く11の戦略で正診率が改善
115人のうち、乳房組織生検の経験が豊富な病理医は75人、乏しい病理医は40人であった。女性医師が46人(40%)含まれた。
乳房組織の病理検査の経験年数は、0~4年が19%、5~9年が20%、10~19年が30%、20年以上が31%であり、全診療業務に占める乳房組織の解釈の割合は、0~9%が51%、10~24%が39%、25~49%が7%、50%以上は3%だった。
セカンド・オピニオンを行わない単回判定の誤判別率は24.7%であった。これに比べ、全例および初回診断に基づく9つのセカンド・オピニオン戦略による2回目の判定の誤判別率は、浸潤性乳がんに限定した戦略を除く8つの戦略で有意に改善した(18.1~21.9%、いずれもp<0.001)。このうち、全例にセカンド・オピニオンを行う戦略の誤判別率は18.1%であり、最も良好であった。
一方、病理医の経験に基づく3つの戦略では、初回およびセカンド・オピニオン(2~3回目)の双方の判定を経験豊富な病理医が行った場合の誤判別率が14.3%と最も低かった。これは、経験豊富な病理医による単回判定の誤判別率(21.5%)を有意に改善するものであった(p<0.001)。
また、単回判定で良性病変を過大に解釈した割合は12.9%であった。これに対し、初回判定が異型、DCIS、浸潤性の場合にのみセカンド・オピニオンを行う戦略では、異型を伴わない良性病変を過大解釈した割合は6.0%と半減した。
単回判定で最も誤判別率が高かったのは異型病変(52.2%)であり、12のセカンド・オピニオン戦略の異型病変の誤判別率も34.1~51.9%と高率であった。
著者は、「セカンド・オピニオンにより、病理医の経験や診断の信頼性とは無関係に正診率が改善した。診断のばらつきも改善したが、完全に消失することはなく、とくに乳房組織が異型の場合に診断が困難であった」とし、「実臨床での実行可能性や費用については、さらなる検討を要する」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)