スコットランドで行われた地域住民対象のコホート研究において、腹圧性尿失禁に対しては、長期転帰のさらなる調査が必要ではあるもののメッシュ手術の使用が支持され、一方、前膣壁脱および後膣壁脱に対しては単独で最初の修復として行う場合、メッシュ手術による一次脱修復は推奨されないことが示された。また、骨盤臓器脱の修復に関しては、経膣および経腹メッシュ手術はいずれも、経膣非メッシュ手術との比較において有効性および合併症は同程度であった。英国・NHS National Services ScotlandのJoanne R Morling氏らは、「今回の結果は、明確に支持できる特定の骨盤臓器脱修復術はないことを示すものである」と結論している。腹圧性尿失禁および骨盤臓器脱に対するメッシュを用いた経膣的修復術は、長期的な有効性や術後合併症に関するエビデンスが乏しく、その安全性が懸念されていた。Lancet誌オンライン版2016年12月20日号掲載の報告。
尿失禁手術約1万7,000例、骨盤臓器脱手術約1万9,000例のコホート研究を実施
研究グループは、国立病院入院データベースを用い、スコットランド在住の20歳以上の女性で、1997年4月1日~2016年3月31日の間に腹圧性尿失禁または骨盤臓器脱に対する初回かつ単独の手術を受けた患者(それぞれ1万6,660例および1万8,986例)を特定し、安全性について検討した。
主要評価項目は、手術直後の合併症、術後の合併症による入院(5年以内)、さらなる尿失禁手術または骨盤臓器脱手術であった。統計解析は、ポアソン回帰モデルを用い、メッシュ手術か否かで術後転帰を比較した。
メッシュ手術は腹圧性尿失禁には推奨されるが、骨盤臓器脱には推奨されない
尿失禁手術を受けた1万6,660例中1万3,133例(79%)がメッシュ手術であった。非メッシュ開腹手術(膣断端固定術)と比較すると、恥骨後式のメッシュ手術は、術直後の合併症(補正後相対リスク[aRR]:0.44、95%信頼区間[CI]:0.36~0.55)、およびその後の脱手術(補正後発生率比[aIRR]:0.30、95%CI:0.24~0.39)のリスクが低下し、さらなる尿失禁手術(aIRR:0.90、95%CI:0.73~1.11)、および術後5年以内の合併症による入院のリスクは同程度であった(aIRR:1.12、95%CI:0.98~1.27)。
また、脱手術を受けた1万8,986例中1,279例(7%)がメッシュ手術であった。非メッシュ手術と比較すると、前膣壁脱のメッシュ手術は術直後の合併症リスクは同程度であったが(aRR:0.93、95%CI:0.49~1.79)、さらなる尿失禁手術(aIRR:3.20、95%CI:2.06~4.96)および脱手術(aIRR:1.69、95%CI:1.29~2.20)のリスクは増加し、術後5年以内の合併症による入院のリスクは大幅に増加した(aIRR:3.15、95%CI:2.46~4.04)。後膣壁脱のメッシュ手術も同様に、非メッシュ手術と比較して再脱手術や術後5年以内の合併症による入院のリスク増加を認めた。経膣非メッシュ手術と比較した場合、骨盤臓器脱に対する経膣メッシュ手術、ならびに経腹メッシュ手術の転帰に差はなかった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)