低体温療法は外傷性脳損傷後の生存率と神経病学的転帰を改善することが、動物モデルでは知られているが、人間の子どもでは?これまで効果が明らかにされていなかった、重篤な外傷性脳損傷を受けた小児に対する低体温治療の、神経病学的転帰と死亡率についてカナダ・トロント小児病院のJames S. Hutchison氏らが調査を実施。「かえって死亡率を上昇させる危険性がある」と警告する報告を寄せた。NEJM誌2008年6月5日号より。
小児225例を32.5℃ 24時間と37.0℃の群に割り付け
本研究に参加したのは小児外傷性脳損傷低体温療法の研究者およびカナダ救命救急治験グループのメンバー。カナダ、アメリカ、イギリスの17医療センターによる多施設共同国際試験で、重篤な外傷性脳損傷を受けた小児225例を、受傷後8時間以内に低体温療法(32.5℃で24時間)を始める群と、正常体温(37.0℃)で治療する群に無作為に割り付け試験された。
主要転帰は、Pediatric Cerebral Performance Category score(小児脳機能分類スコア)に基づき6ヵ月時点で評価した転帰不良(重度障害、遷延性植物状態、死亡)の小児の割合。
死亡、低血圧、投薬とも低体温群が上回る
平均到達体温は、低体温治療群33.1±1.2℃ 、正常体温治療群36.9±0.5℃ だった。
6ヵ月時点で転帰不良と評価されたのは、低体温治療群31%に対して正常体温治療群22%だった(相対リスク:1.41、 相対リスク:0.89~2.22、 P=0.14)。このうち死亡は低体温治療群23例(21%)に対して正常体温治療群14例(12%)(相対リスク:1.40、相対リスク:0.90~2.27、P=0.06)。
低体温治療群は復温期間中に正常体温治療群より低血圧症が多発し(P=0.047)、血管作用薬の投与も多く必要とした(P<0.001)。集中治療室の在室期間、入院期間および他の有害事象について両群に差異はなかった。
このことからHutchison氏は、「重篤な外傷性脳損傷の小児に対して、受傷後8時間以内に低体温療法を始め、24時間継続しても神経学的転帰は改善せず、かえって死亡率を上昇させる危険性がある」と結論している。
(武藤まき:医療ライター)