コレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害薬anacetrapibは、強化スタチン療法を受けているアテローム動脈硬化性血管疾患患者の主要冠動脈イベントを抑制することが、HPS3/TIMI55-REVEAL Collaborative Groupの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2017年8月29日号に掲載された。CETPは、血中のHDL粒子とアポリポ蛋白B含有アテローム促進性粒子との間で、コレステリルエステルとトリグリセライドの転送を促進する。CETPを薬理学的に阻害すると、HDLコレステロール(HDL-C)が増加し、非HDL-C(とくにLDL-C)が低下するが、これまでに行われた3つのCETP阻害薬の無作為化試験は、いずれも約2年のフォローアップ後に無効または有害事象のため中止されている。
3万例以上を登録、治療期間4年以上
本研究は、強化スタチン療法を受けているアテローム動脈硬化性血管疾患患者において、anacetrapib併用の有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験である(Merck社などの助成による)。
対象は、年齢50歳以上で、心筋梗塞、アテローム動脈硬化性脳血管疾患、末梢動脈疾患、症候性冠動脈心疾患を伴う糖尿病の既往歴を有する患者であった。被験者は、無作為割り付け前の導入期間にLDL-C<77mg/dLを目標に強化アトルバスタチン療法を受け、8~12週後に、anacetrapib 100mg/日またはプラセボを追加する群に無作為に割り付けられた。
2011年8月~2013年10月に、欧州、北米、中国の431施設に3万449例(男性:2万5,534例、女性:4,915例)が登録され、anacetrapib群に1万5,225例が、プラセボ群には1万5,224例が割り付けられた。主要評価項目は、初回主要冠動脈イベント(冠動脈死、心筋梗塞、冠動脈血行再建術の複合)であった。
ベースラインの平均年齢は67歳で、冠動脈心疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患、糖尿病の既往歴はそれぞれ88%、22%、8%、37%に認められ、平均LDL-C値は61mg/dL、非HDL-C値は92mg/dL、HDL-C値は40mg/dLであった。フォローアップ期間中央値は4.1年で、この間に2,277例(7.5%)が死亡した。
主要評価項目を達成、死亡、がん、重篤な有害事象に差はない
主要評価項目の発生率は、anacetrapib群が10.8%(1,640/1万5,225例)と、プラセボ群の11.8%(1,803/1万5,224例)に比べ有意に低下した(率比:0.91、95%信頼区間[CI]:0.85~0.97、p=0.004)。
試験期間の中間点(約2年時)における平均HDL-C値は、anacetrapib群が85mg/dL、プラセボ群は42mg/dL(絶対差:43mg/dL[p<0.001]、相対差:104%)、LDL-C値はそれぞれ38、64mg/dL(-26mg/dL[p<0.001]、-41%)、非HDL値は79、96mg/dL(-17mg/dL[p<0.001]、-18%)であった。
副次評価項目である主要アテローム性イベント(冠動脈死、心筋梗塞、潜在性虚血性脳卒中の複合)の発生率は、anacetrapib群が9.1%、プラセボ群は9.7%(率比:0.93、p=0.052)、潜在性虚血性脳卒中はそれぞれ3.2、3.2%(0.99)、主要血管イベント(主要冠動脈イベント、潜在性虚血性脳卒中の複合)は13.6、14.5%(0.93、p=0.02)であった。
心血管死の発生率は、anacetrapib群が3.4%、プラセボ群は3.7%(p=0.17)、全死因死亡はそれぞれ7.4、7.6%(p=0.46)であり、いずれも有意な差はなかった。また、がんの発生率は、anacetrapib群が6.4%、プラセボ群は6.3%(p=0.71)と有意差はなかったが、新規糖尿病は5.3、6.0%(p=0.0496)であり、anacetrapib群で有意に低かった。重篤な有害事象の発現は両群に差はなかった。
著者は、「anacetrapibの効果が十分に現れるには、少なくとも1年以上の治療を要する可能性が示唆された。脂質値への効果が本薬とほぼ同様のevacetrapibは、26ヵ月の治療で無効と判定されたが(ACCELERATE試験、1万2,092例)、血管イベントへの効果が発現するにはフォローアップ期間が短すぎた可能性がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)