自然妊娠の子供に比べmedically assisted reproduction(MAR)で妊娠した子供は、有害な出生アウトカムのリスクが高いが、そのほとんどはMAR以外の要因によることが、英国・ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のAlice Goisis氏らの検討で示された。すでにMARで出生した子供は500万人以上に上り、これらの子供のウェルビーイング(wellbeing)に及ぼすMARの影響の検討が活発化しているという。MARとは、生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)に加え、排卵誘発、調節卵巣刺激、配偶者/パートナーまたはドナーの精液を用いた子宮内・子宮頸管内・膣内受精などによる生殖を含めた概念である。ARTは、妊娠を促す目的で、卵母細胞と精子の双方あるいは胚を体外で操作する処置または治療であり、体外受精や胚移植のほか、配偶子卵管内移植、接合子卵管内移植、配偶子・胚の凍結保存、卵母細胞・胚の提供、代理母出産などが含まれる。Lancet誌オンライン版2019年1月14日号掲載の報告。
フィンランドの0~14歳児の家族内分析
研究グループは、MARに起因する過剰なリスクに、治療の有害な影響および両親の背景因子がどの程度寄与するかの評価を目的に調査を行った(欧州研究会議[ERC]などの助成による)。
解析には、2000年末の時点で、0~14歳の子供のいる世帯のうち20%の無作為標本を含むフィンランドの行政登録データを用いた。MARまたは自然生殖による妊娠で出生した子供の出生時体重、妊娠期間、低出生体重児リスク、早産リスクを検討した。
観測因子(多胎出生、出生順位、両親の社会人口統計学的背景)で補正した標準的な多変量解析法を用いて、一般人口における妊娠の方法の違いによる出生アウトカムの差を解析した(家族間分析)。次いで、同胞比較アプローチを用いた家族内分析として、MARで妊娠した子供を、自然妊娠の同胞と比較した。
家族間の有意差が、同胞との比較ではほぼ消失
2000年末までにフィンランドで出生した6万5,723人の子供のうち、1995~2000年の期間にMARで妊娠したのは2,776人(4%)であり、残りの6万2,947人が自然妊娠であった(家族間分析の対象)。このうち578の家族に、MARで妊娠した1人以上の子供(625人)と、自然妊娠の1人の同胞(620人)がいた(家族内分析の対象)。
家族間分析では、MARで妊娠した子供は自然妊娠の子供に比べ、子供の観測因子および両親の背景因子で補正したすべてのアウトカムが不良であった。出生時体重は、60g(95%信頼区間[CI]:-86~-34、p<0.0001)低く、妊娠期間は2日(-2.6~-1.5、p<0.0001)短く、低出生体重児リスクが1.61%(0.68~2.55、p=0.001)高く、早産リスクは2.15%(1.07~3.24、p<0.0001)高かった。
同胞と比較する家族内分析では、家族間分析でみられた出生アウトカムの乖離は縮小し、MARと有害な出生アウトカムの関連は実質的に減弱しており、有意差はなくなった。出生時体重の差は、-31g(95%CI:-85~22、p=0.252)、妊娠期間の差は-1.3日(-2.6~0.0、p=0.059)、低出生体重児リスクの増加は1.42%(-0.66~3.51、p=0.18)、早産リスクの増加は1.56%(-1.26~4.38、p=0.278)だった。
自然妊娠の同胞より先に出生したMAR妊娠の子供744人では、ベースラインの未補正の4つのアウトカムはいずれも有意に不良であったが、自然妊娠の同胞より後に出生したMAR妊娠の子供464人では、出生時体重がむしろ重く(有意差はない)、低出生体重児リスクおよび早産リスクにも有意差はなかった。子供の性別と多胎出生で補正すると、出生時体重の差は、先に出生したMAR妊娠の子供では163g(95%CI:-220~-105、p<0.0001)低かったのに対し、後に出生したMAR妊娠の子供ではむしろ58g(-28~144、p=0.183)重かった。
著者は、「不妊治療としてMARを考慮しているカップルや、MARのリスクについて患者に助言を行う医師、および公衆衛生政策の立案者にとって、MAR関連リスクの理解はきわめて重要である」としている。
(医学ライター 菅野 守)