待機的非心臓手術を受けた心不全患者は、症状の有無にかかわらず、同様の手術を受けた非心不全患者に比べ術後90日死亡リスクが有意に高いことが、米国・スタンフォード大学のBenjamin J. Lerman氏らの検討で示された。研究の詳細は、JAMA誌2019年2月12日号に掲載された。心不全は、術後死亡の確立されたリスク因子であるが、左室駆出率(LVEF)や心不全の症状が手術アウトカムに及ぼす影響は、いまだ十分には知られていないという。
後ろ向きコホート研究の約61万例のデータを解析
研究グループは、さまざまな心エコー所見(左室収縮機能不全)および臨床上(症状)の重症度を呈する心不全患者の非心臓手術後の死亡リスクを非心不全患者と比較し、手術の複雑さの程度でリスクに差があるかについて検討を行った(米国国立衛生研究所[NIH]の助成による)。
米国のVeterans Affairs Surgical Quality Improvement Projectのデータベース(2009~16年)を用いて、待機的非心臓手術を受ける成人患者を対象とした後ろ向きコホート研究のデータを収集した。
合計60万9,735例の診療記録を同定し、術後1年間のフォローアップのデータを解析した。主要アウトカムは術後90日死亡とした。
心不全の病歴を有する患者は4万7,997例(7.9%、平均年齢68.6[SD 10.1]歳、1,391例[2.9%]が女性)であり、非心不全患者は56万1,738例(92.1%、59.4[13.4]歳、5万862例[9.1%])であった。
粗死亡率:非心不全1.22%、心不全5.49%、有症状10.11%、無症状4.84%
術後90日時の粗死亡率は、心不全患者が5.49%(2,635例)、非心不全患者は1.22%(6,881例)であり、多変量で補正した術後90日死亡率は心不全患者が有意に高かった(補正後絶対リスク差[RD]:1.03%、95%信頼区間[CI]:0.91~1.15%、補正後オッズ比[OR]:1.67、95%CI:1.57~1.76)。
非心不全患者と比較した心不全症状の有無別の術後90日死亡リスクは、症状を呈する心不全患者(粗死亡率:10.11%[597/5,906例]、補正後絶対RD:2.37%、95%CI:2.06~2.57%、補正後OR:2.37、95%CI:2.14~2.63)、および無症状の心不全患者(4.84%[2,038/4万2,091例]、0.74%、0.63~0.87%、1.53、1.44~1.63)のいずれにおいても有意に高かった。
また、非心不全患者に比べ、無症状で左室収縮機能が保たれた(LVEF≧50%)心不全患者(粗死亡率:4.42%、補正後絶対RD:0.66%、95%CI:0.54~0.79%、補正後OR:1.46、95%CI:1.35~1.57)、および心不全症状がみられ、重度左室収縮機能不全(LVEF<30%)の心不全患者(14.91%、5.87%、5.30~6.44%、3.67、2.98~4.52)でも、術後90日死亡リスクが上昇していた。心不全と術後死亡率の関連は、30日、90日、1年の時点でほぼ同様であった。
一方、粗死亡率および心不全-死亡関連の双方には、手術の複雑度の違いによって有意な差が認められた。心不全患者の術後90日時の粗死亡率は、手術の複雑度が標準の場合は4.62%、中等度では6.26%、高度では10.34%であり、非心不全患者ではそれぞれ0.66%、1.89%、6.19%であった。心不全患者と非心不全患者の補正後絶対RDは、複雑度が標準の手術では1.29(95%CI:1.22~1.37)、中等度では1.69(1.48~1.94)、高度では1.80(0.08~3.60)だった。
著者は、「これらのデータは、非心臓手術を受ける心不全患者との術前の話し合いの際に有益となる可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)