先天性の遺伝子疾患マルファン症候群において、進行性の大動脈起始部拡張は大動脈解離につながり、患者の若年死の主因となっている。そのマルファン症候群のマウス研究で、大動脈起始部拡張がトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)の過剰な情報伝達に起因し、TGF-β拮抗剤であるアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などによる治療で緩和可能なことが示されたことを受け、ジョンズ・ホプキンス医科大学のBenjamin S. Brooke氏らは、マルファン症候群の患児でARBの臨床効果を評価。結果、大動脈起始部拡張の進行を遅らせる効果があると報告した。NEJM誌2008年6月26日号より。
他の薬物療法が奏功しなかった患児18例を追跡
重度の進行性大動脈起始部拡張を抑制するため、それまでに他の薬剤による治療が奏効しなかった14ヵ月~16歳の患児18例を同定し、2003年11月~2006年5月の間にARB治療を開始して、12~47ヵ月間の治療期間中、追跡調査を行った。
投与したARBは、17例がロサルタン、1例がイルベサルタンだった。ARBによる治療を開始する前後の大動脈起始部直径の変化率を比較することで、有効性を評価した。
大動脈起始部拡張の症状進行を有意に抑制
大動脈起始部直径の変化率の平均値は、直前の薬物療法期間中は年率3.54±2.87mmだったが、ARB治療期間中は年率 0.46±0.62mmへ有意に減少した(P<0.001)。
Zスコアで変化率が表される大動脈起始部拡張の標準偏差は、ARB治療の開始後、平均して年率1.47スコア減少した(95%信頼区間:0.70~2.24、P<0.001)。大動脈起始部だけでなく、マルファン症候群で同様に拡張する傾向があるSTJ(sinotubular junction)の直径も、ARB治療の間、変化率が低下した(P<0.05)。しかし通常、マルファン症候群では拡張しない遠位上行大動脈はARB治療に影響されなかった。
Brooke氏は、「この小規模なコホート研究では、マルファン症候群患者へのARB療法は、大動脈起始部拡張の進行を有意に遅らせた。これらの知見は今後、無作為化試験によって確認する必要がある」と結論している。
参考:ロサルタン(国内販売名:ニューロタン、プレミネント)、イルベサルタン(国内販売名:アバプロ、イルベタン)
(武藤まき:医療ライター)