長時間作用型選択的ARBのイルベサルタンは、マルファン症候群の小児および若年成人患者において大動脈拡張率を減少し、大動脈合併症の発症を減少させる可能性があることが、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のMichael Mullen氏らにより英国22施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「Aortic Irbesartan Marfan Study:AIMS試験」の結果、示された。ARBであるロサルタンとβ遮断薬との併用療法について検証した無作為化試験では、マルファン症候群の大動脈拡張に対する明らかな有効性は確認されなかったが、イルベサルタンはロサルタンと比較して降圧作用が強く生物学的利用率が良好で半減期も長いことから、マルファン症候群患者の大動脈解離や破裂に関連する大動脈拡張を抑制することが期待されていた。Lancet誌オンライン版2019年12月10日号掲載の報告。
マルファン症候群と確認された6~40歳の患者をイルベサルタンとプラセボに割り付け
研究グループは、臨床的にマルファン症候群と確認された6~40歳の患者に、非盲検下でイルベサルタン75mgを1日1回投与した後、イルベサルタン群(150mg 1日1回、忍容性があり体重>50kgの場合は1日1回最大300mgまで増量可)、または適合プラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。ベースライン時および1年ごとに心エコーで大動脈径を測定(盲検下中央判定)した。
主要評価項目は、大動脈起始部の拡張率で、線形混合効果モデルを用いてintention-to-treat解析を行った。
マルファン症候群患者の大動脈拡張率はイルベサルタン群で有意に減少
2012年3月14日~2015年5月1日にマルファン症候群と確認された患者192例が無作為化され(イルベサルタン群104例、プラセボ群88例)、5年間追跡を受けた。募集時点の年齢中央値は18歳(IQR:12~28)、女性99例(52%)、平均血圧110/65mmHg(SD 16/12)、108例(56%)がβ遮断薬を使用していた。ベースラインの大動脈起始部の直径(平均±SD)は、イルベサルタン群34.4±5.8mm、プラセボ群34.4±5.5mmであった。
マルファン症候群と確認された患者の大動脈起始部の拡張率(年変化率、平均値)は、イルベサルタン群0.53mm/年(95%信頼区間[CI]:0.39~0.67)、プラセボ群0.74mm/年(0.60~0.89)であり、群間差は-0.22mm/年(95%CI:-0.41~-0.02、p=0.030)であった。大動脈Zスコアの変化率も同様にイルベサルタン群で減少した(平均群間差:-0.10/年、95%CI:-0.19~-0.01、p=0.035)。イルベサルタンの忍容性は良好で、重篤な有害事象の発現率の差は確認されなかった。
なお、著者は研究の限界として、全体的なマルファン症候群の症例数が少なかったこと、イルベサルタン群の症例数が多かったこと、無作為化が不完全であったことなどを挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)