変形性関節症の痛みを軽減するためのグルコサミンの習慣的な補充療法が、心血管疾患イベントのリスクを低減しており、とくに喫煙者でその効果が高い可能性があることが、米国・テュレーン大学のHao Ma氏らによる前向きコホート研究で明らかとなった。研究の成果はBMJ誌2019年5月14日号に掲載された。グルコサミン補助剤を用いる補充療法は、変形性関節症の治療で一般的に使用されているが、疾患や関節痛の軽減への効果は議論が続いている。その一方で、最近の動物実験やヒトの横断研究により、心血管疾患の予防や死亡率の抑制において役割を担う可能性が示唆され、前向き研究のエビデンスが求められている。
英国のUKバイオバンクのデータを前向きに解析
研究グループは、習慣的なグルコサミンの使用と心血管疾患イベントの関連の評価を目的に、前向きコホート研究を行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。
解析には、英国のUKバイオバンク(2006~10年に、年齢40~69歳の約50万人を登録)のデータを用いた。ベースライン時に、心血管疾患がなく、グルコサミンを含む補助剤の使用に関する質問票に回答した参加者46万6,039例を、2016年まで追跡した。
主要アウトカムは、心血管疾患イベント(心血管疾患による死亡、冠動脈疾患、脳卒中)の新規発生とした。
心血管疾患イベント15%低下、喫煙者の有効性は偶然の可能性も
グルコサミン使用群は8万9,985例(19.3%、平均年齢58.9[7.1]歳、女性63.6%)、非使用群は37万6,054例(80.7%、55.6[8.2]歳、54.0%)であり、使用群は年齢が高く、女性が多かった。
追跡期間中央値は7年で、この間に1万204件の心血管疾患イベントが新たに発生し、このうち心血管疾患による死亡が3,060件、冠動脈疾患イベントが5,745件、脳卒中イベントは3,263件だった。
年齢、性別、BMI、人種、生活習慣(喫煙、飲酒、身体活動など)、食事摂取、薬剤使用、他の補助剤使用などで調整すると、グルコサミン使用により、心血管疾患イベントが15%有意に低下した(補正後ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.80~0.90、p<0.001)。
また、心血管疾患による死亡は22%(補正後HR:0.78、95%CI:0.70~0.87、p<0.001)、冠動脈疾患イベントは18%(0.82、0.76~0.88、p<0.001)、脳卒中イベントは9%(0.91、0.83~1.00、p=0.04)、それぞれ有意に減少した。
さらに、冠動脈疾患は、非致死的(補正後HR:0.84、95%CI:0.77~0.91、p<0.001)および致死的(0.70、0.59~0.85、p<0.001)の双方が、グルコサミンにより有意に低下した。一方、脳卒中では、非致死的、致死的、虚血性、出血性のいずれにも有意差は認めなかった。
層別解析では、グルコサミンの使用と喫煙には、心血管疾患および冠動脈疾患に関して、有意な相互作用がみられた。すなわち、グルコサミン使用群のうち、元喫煙者で心血管疾患が15%(補正後HR:0.85、95%CI:0.79~0.94)、生涯非喫煙者で12%(0.88、0.82~0.97)、それぞれ低下したのに対し、現喫煙者では26%(0.74、0.63~0.87)と、さらにリスクが低下していた(p
interaction=0.02)。同様に、冠動脈疾患は、元喫煙者で18%(0.82、0.73~0.93)、生涯非喫煙者で12%(0.88、0.79~0.99)、現喫煙者では37%(0.63、0.51~0.79)と低下した(p
interaction=0.004)。現喫煙者での効果は、元喫煙者や生涯非喫煙者よりも強力だった。
著者は、「喫煙者での良好な結果は、偶然による可能性を排除できない」としたうえで、「喫煙者は炎症レベルが高いとされ、炎症ストレスが大きい集団では抗炎症薬の効果が高いとの仮説があることから、グルコサミンと喫煙の相互作用は生物学的にはありえると考えられる」と考察している。
(医学ライター 菅野 守)