香港は2019年6月から、暴力を伴う混乱が続き社会不安が増している。中国・香港大学のMichael Y. Ni氏らは、住民を対象とした10年間の前向きコホート研究を行い、社会不安により重大なメンタルヘルス問題が起きていることを明らかにし、メンタルヘルスサービスを急増させる必要があることを報告した。現在も香港の社会不安は全地区にわたっており、略奪行為はみられないが放火や破壊行為など暴力レベルは高い状態にある。しかし直接的な身体的外傷を除くメンタルヘルスへの影響については報告されていなかった。Lancet誌オンライン版2020年1月9日号掲載の報告。
2009年以降現在まで9期に分けうつ病・PTSD疑い例を調査
研究グループは、香港における18歳以上の住民を対象とする身体的、精神的および社会的幸福感に関する前向きコホート研究「FAMILY Cohort」のデータを用いて、2009年3月から9つの期間で、精神障害、リスク因子、医療ニーズについて解析した。
Patient Health Questionnaire(PHQ)-9が10点以上を「うつ病疑い」とし、6項目PTSD Checklist-Civilian Versionが14点以上+現在の社会不安に関連する外傷性イベントに直接曝露の場合を「外傷後ストレス障害(PTSD)疑い」とした。
統計解析は、多変量ロジスティック回帰分析を用い、社会不安発生以前の医師によるうつ病または不安障害の診断に関して補正し、うつ病・PTSD疑いに関連する要因を特定した。また、ルーチンに行われているサービス統計と、専門家のケアを求める回答者の意思を基に、精神科専門外来受診者の予測数を算出した。ベースライン(第1期および第2期)の調査後、各期1,213~1,736例の無作為抽出集団について追跡調査した。
2019年時点でうつ病疑い11.2%、PTSD疑い12.8%
うつ病疑いは、2019年時点で11.2%(95%信頼区間[CI]:9.8~12.7)報告されたのに対して、2009~14年では1.9%(1.6~2.1)、2014年香港反政府デモ(Occupy Central Movement)後から現在の社会不安状況以前の2017年時点では6.5%(5.3~7.6)と報告された。また、2019年時点でのPTSD疑いの有病率は、12.8%と推定された(95%CI:11.2~14.4)。
年齢、性別、学歴、世帯収入はいずれのアウトカムとも関連がなかったが、ソーシャルメディアの頻繁利用(1日2時間以上)は、両方のアウトカムと関連が認められた。政治的態度や抗議行動参加については、うつ病疑いとの関連は確認されなかったが、逃亡犯条例(extradition bill)に対して中立の立場の場合、PTSD疑いのリスクが半減した。また、家族の支援により、うつ病疑いは軽減した。
また、これらメンタルヘルスの負荷が、公的機関またはそれと同等のサービスの必要性を12%増すと推定された。
結果を踏まえて著者は、「医療および社会的ケアの専門家はメンタルヘルス後遺症の可能性を認識して注意を払う必要がある」と述べるとともに、「世界中で社会不安が増す中で、今回の所見は、人々のメンタルヘルスをより適切に保護するサービス計画に影響を与えるものとなるだろう」と指摘している。
(医学ライター 吉尾 幸恵)