人工股関節全置換術(THA)において、前方アプローチは側面または後方アプローチと比較して、わずかだが統計学的に有意に重大術後合併症リスクが増大することが示された。カナダ・トロント大学のDaniel Pincus氏らが、患者3万例超を対象に行った住民ベースの後ろ向きコホート試験で明らかにしたもので、JAMA誌2020年3月17日号で発表した。THAの好ましいアプローチ法については議論の的となっている。著者は「今回の試験の結果は、アプローチ法の判断に役立つ可能性があるだろう。一方で、痛みや機能的アウトカムを明らかにする、さらなる研究を行う必要もある」と述べている。
深部感染、非観血的・観血的整復法を要する脱臼などの合併症発生率を評価
研究グループは、2015年4月1日~2018年3月31日にかけて、カナダ・オンタリオ州でプライマリなTHAを受けた患者3万98例を対象に試験を行った。全患者を1年間追跡し、手術の際の前方アプローチまたは側面・後方アプローチのアウトカムを比較した(最終追跡日は2019年3月31日)。
主要アウトカムは、手術を要する深部感染、非観血的・観血的整復法を要する脱臼、再置換手術のいずれかで定義した術後1年間の重大術後合併症だった。
Cox比例ハザードモデルを用い、傾向スコアでマッチングした各アプローチ群のアウトカムを比較した。
重大術後合併症の発生、前方アプローチ群2%、側面・後方アプローチ群1%
被験者3万98例の平均年齢は67歳(SD 10.7)、女性は1万6,079例(53.4%)だった。そのうち、THAを前方アプローチで実施したのは2,995例(10%)、側面アプローチは2万1,248例(70%)、後方アプローチは5,855例(20%)だった。後方アプローチは1病院の1人の外科医によって実施された(全体では73病院・施術外科医298人)。
前方アプローチ群は側面・後方アプローチ群と比較して、年齢が若く(平均年齢65歳vs.67歳、標準化群間差:0.17)、病的肥満率(4.8% vs.7.6%、0.12)、糖尿病の割合(14.2% vs.19.9%、0.15)、高血圧症の割合(53.4% vs.62.9%、0.19)が低く、また執刀経験値が高い外科医が多かった(症例中央値111[四分位範囲:69~172]vs.77[50~119])。
傾向スコアでマッチングした前方アプローチ群(2,993例)と側面・後方アプローチ群(2,993例)を比較したところ、重大術後合併症の発生はそれぞれ61例(2%)と29例(1%)で、前方アプローチ群で高率だった(絶対リスク差:1.07%[95%信頼区間[CI]:0.46~1.69]、ハザード比:2.07[95%CI:1.48~2.88])。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)