転移のない去勢抵抗性前立腺がんで、前立腺特異抗原(PSA)値の急激な上昇がみられ、アンドロゲン除去療法を受けている患者において、エンザルタミドの追加はプラセボと比較して、全生存(OS)期間を10ヵ月以上延長し、死亡リスクを27%低下させることが、米国・Weill Cornell MedicineのCora N. Sternberg氏らの検討「PROSPER試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年6月4日号に掲載された。エンザルタミドは経口アンドロゲン受容体阻害薬であり、本試験の初期結果では、無転移生存期間を有意に延長したと報告されている。この時点では、OSのデータは十分でなく、2つの治療群ともOS期間の中央値には到達していなかった。今回は、OSの3回目の中間解析(最終解析)の結果が報告された。
併用効果を評価するプラセボ対照無作為化試験
本研究は、32ヵ国の300以上の施設の独立審査委員会によって承認された国際的な二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2013年11月~2017年6月の期間に患者登録が行われた(PfizerとAstellas Pharmaの助成による)。
対象は、転移のない去勢抵抗性の前立腺がん(従来の画像検査とPSA倍加時間≦10ヵ月で判定)の男性で、アンドロゲン除去療法を継続している患者であった。
被験者は、アンドロゲン除去療法に加え、エンザルタミド(160mg、1日1回)またはプラセボを投与する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。
主要エンドポイントは無転移生存であり、副次エンドポイントはOS期間、PSA増加までの期間、PSA奏効率、安全性などであった。今回は、OS期間と有害事象のデータが示された。
OS期間:67.0ヵ月vs.56.3ヵ月、後治療までの期間も延長
1,401例が登録され、エンザルタミド群に933例(年齢中央値74歳、PSA倍加時間中央値3.8ヵ月)、プラセボ群(73歳、3.6ヵ月)には468例が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は48ヵ月だった。
2019年10月15日(データカットオフ日)の時点で、エンザルタミド群の288例(31%)、プラセボ群の178例(38%)が死亡した。エンザルタミド群では、前立腺がんによる死亡が178例(19%)、前立腺がん以外の原因による死亡は110例(12%)であり、プラセボ群ではそれぞれ136例(29%)および42例(9%)だった。
OS期間中央値は、エンザルタミド群が67.0ヵ月と、プラセボ群の56.3ヵ月に比べ有意に延長した(死亡のハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.61~0.89、p=0.001)。エンザルタミド+アンドロゲン除去療法は、プラセボ+アンドロゲン除去療法に比べ、死亡のリスクを27%抑制した(0.73、0.61~0.89、p=0.001)。事前に規定されたサブグループのほとんどで、エンザルタミド群のOS期間がプラセボ群よりも良好であった。3年生存率は、エンザルタミド群80%、プラセボ群73%だった。
エンザルタミド群はプラセボ群に比べ、新たな抗悪性腫瘍薬による後治療の開始が有意に遅かった(HR:0.29、95%CI:0.25~0.35)。抗悪性腫瘍薬の初回使用までの期間中央値は、エンザルタミド群が66.7ヵ月、プラセボ群は19.1ヵ月であった。また、試験薬中止後に1つ以上の抗悪性腫瘍薬による後治療を受けた患者は、エンザルタミド群が310例(33%、治療中止例の56%)で、プラセボ群は303例(65%)だった。
曝露歴で補正したGrade3以上の有害事象の発生率は、100人年当たりエンザルタミド群が17件、プラセボ群は20件であり、両群で類似していた。また、エンザルタミド群の有害事象は、既報のデータと一致しており、とくに疲労(46%)と筋骨格系イベント(34%)が多かった。
著者は、「最近の研究では、アンドロゲン受容体阻害薬は、転移のない去勢抵抗性前立腺がん患者の転移までの時間を遅らせるだけでなく、OSを改善するとのエビデンスが増えており、今回の結果は、同様のエビデンスを1つ加えるものである。エンザルタミドは、転移のない、および転移のある去勢抵抗性前立腺がんの両方で生存期間を延長することが示された」としている。
(医学ライター 菅野 守)