血漿アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)濃度の上昇は主要な心血管イベントのリスク増大と関連することが、カナダ・マックマスター大学のSukrit Narula氏らによる「Prospective Urban Rural Epidemiology(PURE)研究」において示された。ACE2は、レニン-アンジオテンシン系ホルモンカスケードの内因性の拮抗的調節因子であり、循環血中のACE2活性と濃度の上昇は、さまざまな心血管疾患を持つ患者の予後不良マーカーとなる可能性が示唆されていた。Lancet誌2020年10月3日号掲載の報告。
5大陸14ヵ国のデータを用いたケースコホート研究
研究グループは、血漿ACE2濃度と、死亡および心血管疾患イベントのリスクとの関連を検証する目的で、PURE研究のデータを用いてケースコホート研究を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成による)。
PURE研究の参加者のうち、5大陸(アフリカ、アジア、欧州、北米、南米)の14ヵ国のデータを用いた。血漿ACE2濃度を測定し、血漿ACE2値の潜在的な決定因子とともに、ACE2と心血管疾患イベントの関連を評価した。
2005年1月~2006年12月の期間にPURE研究に登録された集団のうち、1万753人が解析に含まれた。フォローアップ期間中央値は9.42年(IQR:8.74~10.48)であった。
男性、東アジア、高BMIで高値、死亡の最も優れた予測因子の可能性
相対的重要度の最も高い血漿ACE2値の決定因子は性別で、次いで地理的家系、BMI、糖尿病、年齢、収縮期血圧、喫煙、LDLコレステロール値の順であった。男性は女性よりも血漿ACE2値が高く、血漿ACE2濃度は地理的家系によって大きく異なっていた(南アジアが最も低く、東アジアが最も高い)。高BMI、糖尿病、高齢、高血圧、高LDLコレステロール、喫煙は、すべて血漿ACE2値の上昇と関連していた。
臨床的リスク因子と血漿ACE2値の関連の因果関係を検討したところ、遺伝学的に高BMIと2型糖尿病は血漿ACE2の高値と関連したが、高LDLコレステロール、高収縮期血圧、喫煙には関連を認めなかった。
血漿ACE2濃度の上昇は、死亡リスクの増加と関連し(1SD増加ごとのハザード比[HR]:1.35、95%信頼区間[CI]:1.29~1.43)、同様の関連が心血管死(1.40、1.27~1.54)および非心血管死(1.34、1.27~1.43)にも認められた。
また、血漿ACE2濃度は、初発の心不全(1SD増加ごとのHR:1.27、95%CI:1.10~1.46)、心筋梗塞(1.23、1.13~1.33)、脳卒中(1.21、1.10~1.32)、糖尿病(1.44、1.36~1.52)と関連し、これらの結果には年齢、性別、家系、従来の心臓リスク因子とは独立の関係が認められた。脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を加えて補正しても、新規心不全イベントを除き、ACE2値と臨床的エンドポイント(死亡を含む)との独立の関係には頑健性が保持されていた。
ACE2と臨床的リスク因子(糖尿病、BMI、喫煙、非HDLコレステロール、収縮期血圧)の死亡や心血管疾患への影響を解析(臨床的リスク因子、年齢、性別、家系で補正)したところ、ACE2は全死亡(p<0.0001)、心血管死(p<0.0001)、非心血管死(p<0.0001)の最も優れた予測因子であり、心筋梗塞(p<0.0001)では喫煙、糖尿病に次ぐ3番目(非HDLコレステロールとほぼ同等)、心不全(p=0.0032)および脳卒中(p=0.0010)では収縮期血圧、糖尿病に次ぐ3番目に強固な予測因子であった。
著者は、「このようなレニン-アンジオテンシン系の影響を理解して調節することで、心血管疾患の発生を抑制する新たなアプローチがもたらされる可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)