併用抗レトロウイルス療法(CART)を受けているHIV感染例の平均余命は1996年から2005年の間に延長しており、高所得国における20歳時の平均生存例数は一般人口の約2/3であることが、国際的なコホート研究(ART-CC)で明らかにされた。CARTはHIV感染例の生存率およびQOLを有意に改善するが、一般集団レベルにおける余命への影響は明確でなかったという。カナダBritish Columbia Centre for Excellence in HIV/AIDS のRobert Hogg氏がLancet誌2008年7月26日号で報告した。
欧米で実施された14のHIVコホートに関する国際的な共同研究
ART-CC(Antiretroviral Therapy Cohort Collaboration)は、ヨーロッパと北米で実施された14のHIVコホートに関する国際的な共同研究。解析の対象は、年齢16歳以上、CART導入時に抗レトロウイルス療法未治療の症例とした。
CART施行例の平均余命を推算する略式生命表を1996~99年、2000~02年、2003~05年に分けて作成し、性別、ベースライン時のCD4細胞数、注射による薬物使用歴で層別化した。20歳および35歳時にCARTを施行されていた症例のそれ以降の平均生存年数を推算した。20~64歳の間に失われた生存年数および粗死亡率を算出した。
粗死亡率が低下、20歳時の平均余命は36.1から49.4歳に延長
CARTが導入されたのは、1996~99年が1万8,587例、2000~02年が1万3,914例、2003~05年は1万854例で、合計4万3,355例であった。試験期間中に2,056例(4.7%)が死亡し、粗死亡率は1996~99年の1,000人・年当たり16.3例から2003~05年には10.0例にまで低下した。同じ期間に失われた生存年数も、1,000人・年当たり366年から189年に低下した。
20歳時の平均余命は、1996~99年の36.1(SE 0.6)歳から2003~05年には49.4(SE 0.5)歳まで延長した。女性の余命は男性よりも長かった。注射による薬物使用を介して感染したと推定される症例は他の感染経路の症例よりも余命が短かった[2003~05年の年齢:32.6(SE 1.1) vs. 44.7(SE 0.3)]。ベースライン時のCD4細胞数が多い症例よりも、少ない症例のほうが余命は短かった[<100個/μL:32.4(SE 1.1)歳 vs. ≧200個/μL:50.4(SE 0.4)歳)]。
研究グループは、「CARTを施行されたHIV感染例の平均余命は1996年から2005年の間に延長したが、特に注射による薬物使用歴の有無、CD4細胞数別のサブグループではかなりのばらつきが見られた。高所得国における20歳時の平均生存例数は一般人口の約2/3であった」と結論している。
また、「1996年以降の顕著な余命の延長は、高所得国ではCARTの効果が徐々に発揮され全体としては治療が成功していることの証左であるが、一般人口との間にはいまだに大きな乖離があるため、今回のデータをHIV感染者の健康サービスの改善に役立ててほしい」としている。
(菅野守:医学ライター)