臨床試験の個別被験者データ(IPD)を用いたメタ解析について、現状ではその研究手法の質が、満足のいくレベルには達していないという。中国・中南大学のHuan Wang氏らが、323件のIPDメタ解析についてシステマティック・レビューを行い報告した。調査対象のIPDメタ解析のうち、事前にプロトコールの確立を行っていた試験は約3割にとどまり、バイアスリスクの評価を適切な方法で行っていたのは約4割だった。IPDメタ解析は、介入効果の推定に関してエビデンスを提供する理想的なアプローチと見なされているが、方法論の欠陥によるバイアスの影響を受けやすいとされている。IPDメタ解析が一貫性のない基準に基づいて行われているとのエビデンスも示されており、IPDメタ解析が増加しているにもかかわらず、研究手法の質の包括的な評価はこれまで行われていなかった。BMJ誌2021年4月19日号掲載の報告。
Medline、EmbaseなどのIPDメタ解析をシステマティック・レビュー
研究グループは、Medline、Embase、Cochrane Database of Systematic Reviews(CDSR)を基に、無作為化比較試験についてIPDメタ解析を行い、英語で発表された試験について、システマティック・レビューを行った。
IPDメタ解析の研究手法について、その質を評価するとともに改善すべき領域を探った。
IPD非取得率90%以上は39%
レビューには、1991~2019年に発表された、21の臨床分野に関する323件のIPDメタ解析が含まれた。対象のうち270件(84%)はCDSRに非掲載で、インパクトファクターが高い雑誌(ランクは上位4分の1)に発表されたものは269件(84%)だった。
IPDメタ解析で、分析対象とした無作為化比較試験のバイアスリスクに関する評価を適切な方法で行っていたのは43%(95%信頼区間[CI]:38~48)と低かった。同様に、結果の解釈にバイアスリスクを考慮していたのは40%(同:34~45)、分析対象から除外した試験リストに正当な理由を付していたのは32%(同:27~37)であった。
また、事前プロトコールの確立も31%(95%CI:26~36)と低く、全般的効果や被験者と介入の相互関係に関する評価について事前にその方法を規定していたのは、それぞれ44%(同:39~50)と31%(同:26~36)だった。さらに、包括的な文献検索を実施していたのは19%(同:15~23)だった。
被験者や分析対象試験からIPDを得られなかった割合が90%以上だったIPDメタ解析は126件(39%)に上り、うち、その理由を示していたのは60件(48%)、入手できないIPDを補うために特定の戦略を行ったのは21件(17%)のみだった。
これらの結果を踏まえて著者は、「今後のIPDメタ解析では、事前プロトコールを確立して事前にデータ統合計画を規定し、文献の包括的な検索、適切な手法で包含した無作為化試験の批判的な評価、データ分析と解釈においてバイアスリスクを明らかにすること、入手できなかったIPDについての説明が必要である」と述べている。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)