Phe508del-ゲーティング遺伝子型またはPhe508del-機能残存遺伝子型を有する嚢胞性線維症患者の治療において、elexacaftor+tezacaftor+ivacaftorによる3剤併用療法は、肺機能の改善に有効で安全性も良好であり、既存の嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)調節薬(ivacaftorまたはtezacaftor+ivacaftor)よりも大きな利益をもたらすことが、英国・マンチェスター大学のPeter J. Barry氏らが行った「VX18-445-104試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年8月26日号に掲載された。
北米、欧州、オーストラリアの無作為化実薬対照第III相試験
本研究は、北米、欧州、オーストラリアの96施設が参加した二重盲検無作為化実薬対照第III相試験であり、2019年8月~2020年6月の期間に実施された(米国・Vertex Pharmaceuticalsの助成による)。
対象は、年齢12歳以上で、
Phe508del-ゲーティング遺伝子型または
Phe508del-機能残存遺伝子型を有する嚢胞性線維症患者であった。
被験者は、4週間の導入期間にivacaftorまたはtezacaftor+ivacaftorの投与を受けたのち、elexacaftor+tezacaftor+ivacaftorを8週間投与する群または実薬対照(ivacaftorまたはtezacaftor+ivacaftor)群に無作為に割り付けられた。
主要エンドポイントは、elexacaftor+tezacaftor+ivacaftor群における、予測1秒量に対する比率(%FEV
1)のベースライン(導入期間終了時)から8週までの絶対変化量であった。
汗中塩化物イオン濃度とQOLの改善効果も良好
258例(
Phe508del-ゲーティング遺伝子型95例、
Phe508del-機能残存遺伝子型163例)が登録され、導入期間終了後に、3剤併用群に132例(平均年齢[±SD]37.7±14.7歳、女性50.8%)、実薬対照群に126例(37.6±14.3歳、48.4%)が割り付けられた。ベースラインの%FEV
1の平均値は、3剤併用群が67.1±15.7%、実薬対照群は68.1±16.4%だった。
%FEV
1は、ベースラインから8週までに、3剤併用群で3.7ポイント(95%信頼区間[CI]:2.8~4.6、p<0.001)増加したのに対し、実薬対照群は0.2ポイント(-0.7~1.1)の増加であった。両群間の差は3.5ポイント(2.2~4.7)と3剤併用群で良好で、有意な差が認められた(p<0.001)。
また、汗中塩化物イオン濃度は、ベースラインから8週までに、3剤併用群で22.3mmol/L(95%CI:20.2~24.5、p<0.001)低下したのに対し、実薬対照群では0.7mmo/L(-1.4~2.8)増加しており、両群間の差は23.1mmol/L(20.1~26.1)と3剤併用群で有意に良好だった(p<0.001)。
一方、嚢胞性線維症質問票改訂版(CFQ-R)の呼吸器領域のスコア(0~100点、点数が高いほどQOLが良好、臨床的に意義のある最小変化量4点)は、ベースラインから8週までに、3剤併用群で10.3点(95%CI:8.0~12.7)上昇したのに対し、実薬対照群では1.6点(-0.8~4.1)の上昇で、両群間の差は8.7点(5.3~12.1)であった。
1件以上の有害事象が発現した患者の割合は両群でほぼ同様であり(3剤併用群66.7%、実薬対照群65.9%)、ほとんどが軽度~中等度で試験期間中に消退した。両群とも頭痛の頻度が最も高かった(8.3%、15.1%)。重篤な有害事象は、3剤併用群5例(3.8%)、実薬対照群11例(8.7%)で発現した。投与中止の原因となった有害事象は、3剤併用群で1例(0.8%、アミノトランスフェラーゼ値上昇)、実薬対照群で2例(1.6%、不安または抑うつ、呼吸器症状の増悪)に認められた。
著者は、「これらの結果は、elexacaftor+tezacaftor+ivacaftorの投与によるCFTR機能の改善を反映しており、少なくとも1つの
Phe508del対立遺伝子を有する嚢胞性線維症患者におけるこの3剤併用療法の有効性と安全性を確定するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)