診療の質に応じた報奨制度が医療格差の解消に寄与

提供元:ケアネット

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公開日:2008/09/11

 

イギリスの診療の質に応じた報奨制度は、貧困に関連した医療格差の解消に実質的に寄与することが、制度開始3年間のデータ解析から明らかとなった。“quality and outcomes framework”はイギリスの一般医に対する診療報酬支払い制度で、診療の質的な指標に対する達成度の評価に基づく。しかし、貧困地域よりも富裕地域の診療報酬が高いという事態になれば、この制度はケア提供の格差をむしろ増大させかねないという。Manchester大学国立プライマリ・ケア研究/開発センターのTim Doran氏が、Lancet誌2008年8月30日号(オンライン版2008年8月11日号)で報告した。

経済的な差と診療の質の関連を評価




研究グループは、“quality and outcomes framework”の開始から3年間における社会経済的な差と提供された診療の質の関連について評価した。解析には、イギリスの一般診療に導入されたコンピュータシステムから自動的に抽出された7,637件のデータ、国勢調査、2006年度一般医療総計データベースの診療および患者の背景データが用いられた。

各地域の経済的な差に基づいて診療状況を同じサイズの5つの群に分けた。診療達成度は、診療目標が的確に達成された患者の割合と定義した。“quality and outcomes framework”の開始から3年間(2004~05年度、2005~06年度、2006~07年度)における48項目の診療活動指標についてその全体的な達成度を算出した。

診療達成度は年ごとに改善、医療格差も短縮




報告された全体の診療達成度の中央値は、1年目が85.1%、2年目が89.3%、3年目が90.8%であった。1年目は、貧困度が高い地域ほど診療の達成度が低かった[五分位の第1群(経済的に最も裕福なグループ):86.8%~第5群(最も貧困なグループ):82.8%]。

1年目に比べ3年目では、診療達成度の中央値は第1群が4.4%上昇し、第5群は7.6%増加しており、両群間の格差は1年目の4.0%から3年目には0.8%にまで短縮した。

著者は、「意図しない結果に陥る危険はまだある」としつつも、「この診療の質に応じた診療報奨制度は、貧困に関連したケア提供の格差の解消に、実質的に寄与する可能性が示唆された」と結論している。

(菅野守:医学ライター)