高リスクの生化学的再発を呈する前立腺がん患者の治療では、無転移生存期間に関して、リュープロレリン単独と比較してエンザルタミド+リュープロレリン併用およびエンザルタミド単剤療法の優越性を認め、エンザルタミドの安全性プロファイルは先行試験の結果と一致することが、米国・シダーズ・サイナイ医療センターのStephen J Freedland氏らが実施した「EMBARK試験」で明らかとなった。研究の成果は、NEJM誌2023年10月19日号に掲載された。
244施設の国際的な無作為化第III相試験
EMBARK試験は、17ヵ国244施設が参加した国際的な無作為化第III相試験であり、2015年1月~2018年8月に患者の登録と無作為化を行った(PfizerとAstellas Pharmaの助成を受けた)。
対象は、生検で前立腺の腺がんを確認し、局所治療後に生化学的再発を示し、スクリーニング時に前立腺特異抗原(PSA)倍加時間が9ヵ月以下の高リスク病変を有し、血清テストステロン値≧150ng/dLで、全身状態が良好(ECOG PSスコアが0または1点)な成人患者であった。
被験者を、エンザルタミド(160mg、1日1回、経口)+リュープロレリン(22.5mg、12週ごと、筋肉内または皮下)を投与する群(併用群)、プラセボ+リュープロレリンを投与する群(リュープロレリン単独群)、エンザルタミド単剤を投与する群(単剤療法群)に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。
主要評価項目は、リュープロレリン単独群と比較した併用群の無転移生存期間とし、独立中央判定委員会が盲検下に評価した。主な副次評価項目は、リュープロレリン単独群と比較した単剤療法群の無転移生存期間などであった。
新たな安全性シグナルの発現はない
1,068例を登録した。併用群が355例、リュープロレリン単独群が358例、単剤療法群は355例であった。全体の年齢中央値は69歳(範囲:49~93)、白人が83.2%で、PSA倍加時間中央値は4.9ヵ月(範囲:0.9~18.9)、PSA値中央値は5.2ng/mL(範囲:1.0~308.3)だった。
追跡期間中央値は60.7ヵ月であった。5年時点での無転移生存率は、併用群が87.3%(95%信頼区間[CI]:83.0~90.6)、リュープロレリン単独群が71.4%(65.7~76.3)、単剤療法群は80.0%(75.0~84.1)であった。
無転移生存期間は、リュープロレリン単独群に比べ、併用群で有意に優れ(転移または死亡のハザード比[HR]:0.42、95%CI:0.30~0.61、p<0.001)、単剤療法群でも有意差を認めた(転移または死亡のHR:0.63、95%CI:0.46~0.87、p=0.005)。
また、リュープロレリン単独群に比べ併用群では、中間解析時点における全生存期間(HR:0.59、95%CI:0.38~0.91、p=0.02)、PSA増悪(PSA倍加時間≦10ヵ月と定義、0.07、0.03~0.14、p<0.001)、新たな抗腫瘍治療の初回使用までの期間(0.36、0.26~0.49、p<0.001)がいずれも有意に優れ、単剤療法群では全生存期間(0.78、0.52~1.17、p=0.23)には差がなかったが、PSA増悪(0.33、0.23~0.49、p<0.001)と新たな抗腫瘍治療の初回使用(0.54、0.41~0.71、p<0.001)は有意に良好だった。
3つの群に新たな安全性シグナルの発現はみられなかった。最も頻度の高い有害事象は、併用群とリュープロレリン単独群がホットフラッシュ(それぞれ、68.8%、57.3%)および倦怠感(42.8%、32.8%)で、単剤療法群は倦怠感(46.6%)、女性化乳房(44.9%)で、ホットフラッシュは21.8%であった。
有害事象による投与中止は、併用群が20.7%、リュープロレリン単独群が10.2%、単剤療法群は17.8%で認めた。有害事象による死亡は、それぞれ6例(1.7%)、3例(0.8%)、8例(2.3%)で発生したが、治療関連と判定されたものはなかった。生活の質(QOL)については3群間に大きな差は認めなかった。
著者は、「本試験のデータは、アンドロゲン受容体阻害薬エンザルタミドとアンドロゲン除去療法の併用が、アンドロゲン除去療法単独と比較して、臨床的に意義のある有益性をもたらしたとする既報の第III相試験の知見を裏付けるものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)