再発または転移のある上咽頭がん(RM-NPC)の1次治療において、プログラム細胞死1(PD-1)を標的とするヒト化IgG4Kモノクローナル抗体であるtoripalimabと標準化学療法の併用は、標準化学療法単独と比較して統計学的に有意かつ臨床的に意義のある無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)の延長をもたらし、安全性プロファイルも管理可能であることが、中国・中山大学がんセンターのHai-Qiang Mai氏らが実施した「JUPITER-02試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年11月28日号に掲載された。
アジアの国際的な無作為化プラセボ対照第III相試験
JUPITER-02試験は、中国本土、台湾、シンガポールのNPCの発生頻度が高い地域で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年11月~2019年10月に35の施設で患者を登録した(Shanghai Junshi BiosciencesとCoherus Biosciencesの助成を受けた)。
全身化学療法による治療歴のないRM-NPC患者289例を、toripalimab+標準化学療法(ゲムシタビン+シスプラチン)の投与を受ける群に146例(年齢中央値46歳[四分位範囲[IQR]:38~53]、男性85%)、プラセボ+標準化学療法の投与を受ける群に143例(51歳[43~57]、81%)を無作為に割り付けた。
試験薬の投与は3週ごとに最大6サイクル行い、引き続きtoripalimabまたはプラセボによる維持療法を、病勢進行、許容できない毒性、2年間の治療の終了のいずれかに至るまで施行した。
主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるPFSとした。
PFSが13.2ヵ月延長、奏効率、奏効期間も改善
PFS中央値は、プラセボ群が8.2ヵ月であったのに対し、toripalimab群は21.4ヵ月と13.2ヵ月の延長をもたらし、有意な差を認めた(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.37~0.73、名目p<0.001)。1年PFS率は、toripalimab群59.0%、プラセボ群32.9%、2年PFS率は、それぞれ44.8%、25.4%だった。
追跡期間中央値36.0ヵ月の時点で、OS中央値は、プラセボ群が33.7ヵ月であったのに対し、toripalimab群は未到達であったが有意に優れた(HR:0.63、95%CI:0.45~0.89、両側p=0.008)。プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)の高発現および低発現のサブグループの双方において、toripalimab群で一貫して良好なOSに関する有効性が観察された。
奏効率(78.8% vs.67.1%、群間差:11.4%、95%CI:1.7~21.2、p=0.02)および奏効期間中央値(18.0ヵ月vs.6.0ヵ月、HR:0.49、95%CI:0.33~0.72、p<0.001)は、いずれもtoripalimab群で有意に優れた。完全奏効の割合はtoripalimab群がプラセボ群のほぼ2倍だった(26.7% vs.13.3%)。
免疫関連有害事象はtoripalimab群で高頻度
全有害事象(100% vs.100%)、Grade3以上の有害事象(89.7% vs.90.2%)、致死的有害事象(3.4% vs.2.8%)、重篤な有害事象(43.8% vs.43.4%)の頻度は両群で同程度であった。一方、試験薬の投与中止の原因となった有害事象(11.6% vs.4.9%)、免疫関連有害事象(54.1% vs.21.7%)、Grade3以上の免疫関連有害事象(9.6% vs.1.4%)の頻度は、いずれもtoripalimab群で高かった。
最も頻度の高いGrade3以上の有害事象は、白血球減少(toripalimab群61.6% vs.プラセボ群58.7%)、好中球減少(58.9% vs.63.6%)、貧血(49.3% vs.40.6%)、血小板減少(33.6% vs.28.7%)であり、化学療法によって誘発された毒性が主であった。
著者は、「これらの知見は、この患者集団における新たな標準治療としてのtoripalimab+ゲムシタビン+シスプラチン療法を支持するものである」としている。また、「潜在性のエプスタイン・バールウイルス(EBV)感染はNPCの発症において重要で、本試験ではtoripalimab群でEBV DNAコピー数が検出不能な値まで減少した患者が有意に多く(p=0.004)、リバウンドを経験した患者は有意に少なかった(p=0.002)。さらに、EBV DNAコピー数のリバウンドは、病勢進行に中央値で1.9ヵ月先行していたことから、病勢進行の予測に活用できる可能性が示唆された」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)