急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のリスク因子を有し、人工呼吸器による管理を受けている外傷患者では、通常ケア単独と比較して、通常ケアに人工呼吸器による深呼吸を追加しても、28日目まで人工呼吸器不要日数は増加しないが、死亡率は改善したとの結果が、米国・コロラド大学のRichard K. Albert氏らが実施した「SiVent試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2023年11月28日号で報告された。
米国15施設の実践的な無作為化試験
SiVent試験は、米国の15の外傷治療施設が参加した実践的な無作為化試験であり、2016年4月~2022年9月の期間に患者の無作為化を行った(Department of Defense Peer-Reviewed Medical Research Program Clinical Trial Awardの助成を受けた)。
年齢18歳以上、人工呼吸器の使用時間が24時間未満の外傷患者で、ARDS発症の5つのリスク因子のうち1つ以上を有し、今後の人工呼吸器の使用時間が24時間以上、生存期間が48時間以上と予測される患者524例(平均年齢43.9[SD 19.2]歳、男性75.2%)を登録し、通常ケア+人工呼吸器による深呼吸を行う群(深呼吸群)に261例、通常ケアのみを行う群(通常ケア群)に263例を無作為に割り付けた。
深呼吸群では、人工呼吸器により6分ごとにプラトー圧35cmH
2O(BMI値>35の患者は40cmH
2O)の深呼吸を導入し、通常ケア群では、医師が患者の希望に応じて治療を行うこととした。
主要アウトカムは、人工呼吸器不要日数(VFD)とし、28日目までの、侵襲的換気の再導入がなく、呼吸補助なしの日数と定義した。副次アウトカムは、28日目までの全死因死亡などであった。
抜管成功までの期間は深呼吸群で短い
28日目までのVFD中央値は、深呼吸群が18.4日(四分位範囲[IQR]:7.0~25.2)、通常ケア群は16.1日(1.1~24.4)であり、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.08)。VFDの補正前平均群間差は1.9日(95%信頼区間[CI]:0.1~3.6)、事前に規定された補正後平均群間差は1.4日(95%CI:-0.2~3.0)だった。
抜管成功までの期間は深呼吸群のほうが短かった(部分分布ハザード比[HR]:1.21、95%CI:1.00~1.47、p=0.05)。
また、28日死亡率は、通常ケア群が17.6%(46/261例)であったのに対し、深呼吸群は11.6%(30/259例)と良好であった(オッズ比[OR]:0.61、95%CI:0.37~1.00、p=0.05)。死亡の補正前HRは0.64(95%CI:0.41~1.02、p=0.06)、同補正後HRは0.70(0.43~1.15、p=0.16)だった。
非致死性の重篤な有害事象の頻度はほぼ同じ
ICU非入室日数中央値は、深呼吸群が13.7日(IQR:2.0~20.6)、通常ケア群は11.9日(0~20.0)であった(p=0.10)。
合併症の発生率には、両群間に差を認めなかった。また、非致死性の重篤な有害事象の割合は、深呼吸群で30.9%(80/259例)、通常ケア群で30.7%(80/261例)と両群で同程度であったが、深呼吸群で低血圧(2.7%[7例]vs.0%)が多くみられた。
著者は、「死亡率が低下し、合併症が増加しなかったことなどから、人工呼吸器による深呼吸の導入は忍容性が高く、臨床アウトカムを改善する可能性があることを示唆する」と指摘し、「深呼吸と死亡率低下を結び付けるメカニズムは推測しかできない」としている。
(医学ライター 菅野 守)