英国では、クリスマスから新年にかけての祝祭日(12月24日~翌年1月1日)にテレビ番組『ドクター・フー(Doctor Who)』の新作が放映されると、翌年の死亡率が低下し、とくに放送日がクリスマスの場合は死亡率の減少幅が大きいことが、英国・バーミンガム大学のRichard D. Riley氏が実施した「TARDIS研究」で示された。研究の詳細は、BMJ誌2023年12月18日号クリスマス特集号「WORKFORCE CRISIS」として掲載された。
1963年開始番組の年末年始放送の影響を分析
英国では、クリスマスから新年にかけての祝祭日に多くの医師が働いているが、その影響は知られていないという。Riley氏は、12月24日~翌年1月1日に働く(架空の)医師が人々の健康に及ぼす影響を調査する目的で自然実験を行った(特定の研究助成は受けていない)。
『ドクター・フー』は、1963年に英国放送協会(BBC)が放送を開始したテレビ番組で、一時的な中断を挟み60年にわたり、「ドクター」と呼ばれる登場人物が時空を超えて悪役と戦い、命を救うために介入する姿を描いている。TARDIS(ターディス)という研究の略称は、この番組に登場する時空移動装置の名前。
放送が開始された1963年以降のイングランド、ウェールズおよび英国全体の年間年齢調整死亡率のデータを収集した。時系列分析で死亡率をモデル化し、前年の12月24日から当該年の1月1日に放送された『ドクター・フー』の新作との関連を推定した。中断時系列分析では、年末年始の番組が毎年のクリスマス介入として分類できるようになった2005年以降の死亡率の変化をモデル化した。
年末年始放送は31回、クリスマスの日の放送は14回
イングランドとウェールズの年間年齢調整死亡率は、1964年の1,000人年当たり約19人から2019年には約10人へと、経時的に徐々に低下していた。
1963年以降、31回の年末年始の祝祭日に『ドクター・フー』の新作が放送され、このうち14回はクリスマスの日に放送された。14回のうち13回は、2005~17年のクリスマスの日だった。
時系列分析では、年末年始の祝祭日の期間中の放送と、その後の年間死亡率の低下との間に関連を認めた。前年の年末年始の祝祭日の期間中に放送がなかった年と比較して、イングランドとウェールズでは、年間死亡率が1,000人年当たり0.20人(95%信頼区間[CI]:-0.066~0.46、p=0.14)少なく、英国全体では0.36人(-0.018~0.75、p=0.06)少なかった。
とくに、番組が前年のクリスマスの日に放送された場合、イングランドとウェールズでは、当該年の年間死亡率は1,000人年当たり0.60人(95%CI:0.21~0.99、p=0.003)少なく、英国全体では0.40人(95%CI:0.08~0.73、p=0.02)少なかった。
2005年以降のクリスマス介入でさらに改善
中断時系列分析では、2005年以降、『ドクター・フー』のクリスマス介入に関連して死亡率に強力な変化(低下)を認め、イングランドとウェールズでは、年間死亡率が1,000人年当たり平均0.73人(95%CI:0.21~1.26、p=0.01)少なく、英国全体では平均0.62(0.16~1.09、p=0.01)少なかった。
著者は、「これらの結果は、医療が当然のことのように提供されるべきではない理由を強化するだろう」と指摘し、「本研究の知見は英国以外でも一般化すると仮定すると、この番組の新作の国際的な放送局であるディズニー・プラス(Disney+)が年末年始に世界中で放映すれば、世界の死亡率を低下させる機会を得ることになり、これにはドクターの宿敵であるマスター(Master)も同意するだろう」としている。
(医学ライター 菅野 守)