常染色体劣性難聴9(DFNB9)の小児の治療において、ヒトOTOF遺伝子導入アデノ随伴ウイルス血清型1型(AAV1-hOTOF)を用いた遺伝子治療は、安全かつ有効であり、新たな治療法となる可能性があることが、中国・復旦大学のJun Lv氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年1月24日号に掲載された。
中国1施設の単群試験
本研究は、中国の1施設(復旦大学附属眼耳鼻喉科医院)で行われた単群試験であり、2022年10月~2023年6月に参加者のスクリーニングを行った(中国国家自然科学基金委員会などの助成を受けた)。
年齢1~18歳、重度~完全難聴で、
OTOF遺伝子の2つのアレルの双方に変異を認め、人工内耳を埋め込んでいないか、片側のみに埋め込んでいる患児6例(男女3例ずつ、年齢1.0~6.2歳)を登録した。
用量制限毒性とGrade4/5の有害事象は発現せず
AAV1-hOTOFを、正円窓から蝸牛に注射(単回)した。6例のうち1例には9×10
11ベクターゲノム(vg)、5例には1.5×10
12vgを注射した。全例が26週間のフォローアップを完了した。
注射後6週の時点で用量制限毒性(主要エンドポイント)は発現せず、試験期間中にGrade4または5の有害事象は認めなかった。合計48件の有害事象が観察され、このうち46件(96%)はGrade1または2であり、2件(4%)はGrade3(1例で2件の好中球数の減少、いずれも自然消退)であった。
6例中5例でABR閾値が改善
5例で聴力の回復を認め、0.5~4.0kHzにおける聴性脳幹反応(ABR)の平均閾値が40~57dB低下した。
9×10
11vgのAAV1-hOTOFの投与を受けた患児(1例)では、平均ABR閾値はベースラインの95dB以上から、4週後には68dB、13週後には53dB、26週後には45dBにまで改善した。また、1.5×10
12vgの投与を受けた患児(5例)のうち4例では、平均ABR閾値はベースラインの95dB以上から、48dB、38dB、40dB、55dBと変化し、26週には聴力の回復を認めた。
聴力が回復した患児では、音声知覚(speech perception)の改善がみられた。
著者は、「本研究は、DFNB9の治療における遺伝子治療の安全性と有効性に関するエビデンスを提供し、他の遺伝性難聴の新たな治療法としての遺伝子治療の基礎を築くものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)