変形性肩関節症を有する60歳以上の患者において、リバース型人工肩関節全置換術(RTSR)は解剖学的人工肩関節全置換術(TSR)の許容可能な代替術であることが、英国・オックスフォード大学のEpaminondas Markos Valsamis氏らによる住民ベースのコホート研究で示された。経時的な再置換術のリスクプロファイルに有意差は認められたが(最初の3年間はRTSRが良好)、一方で長期的な再置換術、重篤な有害事象、再手術、入院期間の長期化、生涯医療コストについて、統計学的な有意差および臨床的に重要な差は認められなかった。RTSRの施術は、直近20年間で世界的に急増しているが、高い質的エビデンスのないまま、本来の病理学的対象患者にとどまらず、手術適応の症例に幅広く施術されている現状がある。そうした治療の不確実性は英国の研究機関において重要な優先事項と認識されており、完了までに数年がかかる国際的な試験に対して資金提供がされているという。BMJ誌2024年4月30日号掲載の報告。
RTSR vs.TSRの再置換術の発生を評価
研究グループは国の研究の優先事項に応えるために、イングランドのNational Joint Registry and Hospital Episode Statisticsのデータを用いた住民ベースコホート研究を行った。変形性肩関節症に対する待機的初回肩関節全置換術を受けた患者における、RTSRとリスクベネフィットおよびコストとの関連を、TSRとのそれと比較した。
2012~20年にイングランドの公立病院と私立病院で公的資金により行われた手術例から、腱板断裂のない変形性肩関節症に対するRTSRまたはTSRを受けた60歳以上の患者を研究対象とした。患者はNational Joint RegistryとNHS Hospital Episode Statisticsおよび住民登録死亡データを結び付け、傾向スコアマッチングと逆確率重み付け(IPTW)を用いて試験コホートを均一化した。
主要アウトカムは、再置換術の発生。副次アウトカムは、術後90日間の重篤な有害事象、術後12ヵ月間の再手術、入院の長期化(3泊超)、Oxford Shoulder Scoreの変化(術前から術後6ヵ月時点)、医療サービスの生涯コストなどであった。
RTSRのTSRに対する再置換術の最小ハザード比は0.33
試験コホートは、患者1万1,961例における選択的初回肩関節置換術1万2,986件から構成された。このうち傾向スコアマッチドコホートは7,124件(RTSR例、TSR例それぞれ3,562例)で構成された。同コホートの再置換術例は126件(1.8%、RTSR例41件、TSR例85件])であった。
IPTWコホートは手術例1万2,968件(RTSR例3,576件、TSR例9,410例)で構成された。最長追跡期間8.75年において、再置換術例は294件(2.3%、RTSR例41件、TSR例253件])であった。
RTSRの再置換術リスクは、最初の3年間で大幅に低下した(最小ハザード比:0.33、95%信頼区間[CI]:0.18~0.59)。再手術のない制限付き平均生存期間(RMST)に臨床的に重要な差はみられなかった。
傾向スコアマッチドコホートにおいて、12ヵ月時点でRTSRの再手術の相対リスクは低下し(オッズ比:0.45、95%CI:0.25~0.83)、絶対リスク差は-0.51%(95%CI:-0.89~-0.13)であったが、IPTWコホートでは相対リスクに有意差はなかった(0.58、0.31~1.08)。
重篤な有害事象、長期入院のリスク、Oxford Shoulder Scoreの変化、モデル化した平均生涯コストのアウトカムは、傾向スコアマッチドコホートにおいて類似しており、IPTWコホートでも一貫していた。
(ケアネット)