50~69歳の男性に前立腺特異抗原(PSA)のスクリーニング検査の勧奨を1回行うと、これを行わない通常の診療と比較して、15年後の前立腺がんによる死亡が有意に減少するもののその差はわずかであり、全生存への効果は認めないことが、英国・ブリストル大学のRichard M. Martin氏らが実施した「CAP試験」の2次解析で明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌2024年5月7日号で報告された。
イングランド/ウェールズの573施設のクラスター無作為化試験
本研究では、PSAスクリーニング検査の勧奨から追跡期間中央値10年の時点においては前立腺がん死を抑制しないことが示されており、研究グループは今回、追跡期間中央値15年の結果を報告した(英国王立がん研究基金などの助成を受けた)。
2001年9月~2007年8月に、イングランドとウェールズの573のプライマリケア施設(クラスター)を2つの群に無作為化し、2002年1月~2009年1月までにこれらの施設を受診した年齢50~69歳の男性を解析の対象とした。
介入群では、参加者はPSAスクリーニング検査の勧奨を1回受け、検査でPSA値が3.0~19.9ng/mLの場合は経直腸的超音波ガイド下生検(10コア)を提示された。対照群の参加者は、標準的な管理を受け、PSA検査の勧奨は行われなかった。
主要評価項目(10年時の前立腺がん特異的死亡率)と8つの副次評価項目のうち4つの結果はすでに報告済みであり、今回は、追跡期間中央値15年の時点での前立腺がん特異的死亡率、全死因死亡率、診断時の前立腺がんのステージ(T1/T2、T3、T4/N1/M1)とGleasonグレード(低:Gleasonスコア[GS]≦6、中:GS=7、高:GS≧8)の結果が示された。
前立腺がん特異的死亡率、わずか0.09%の差
41万5,357例(平均年齢59.0[SD 5.6]歳)の参加者のうち、今回は40万8,721例(98%)を解析に含めた。介入群が18万9,326例、対照群は21万9,395例だった。
介入群のうち1万2,013例、対照群のうち1万2,958例が前立腺がんの診断を受け、15年累積リスクはそれぞれ7.08%(95%信頼区間[CI]:6.95~7.21)および6.94%(6.82~7.06)であった。
追跡期間中央値15年の時点で、前立腺がんで死亡したのは、対照群が1,451例(0.78%、95%CI:0.73~0.82)であったのに対し、介入群は1,199例(0.69%、0.65~0.73)と有意に少なかった(率比[RR]:0.92、95%CI:0.85~0.99、p=0.03)が、その差はわずか0.09%であった。
また、対照群と比較して、介入群では低グレードの前立腺がん(GS≦6:2.2% vs.1.6%、p<0.001)と限局病変(T1/T2、3.6% vs.3.1%、p<0.001)の検出率が有意に高かったが、中グレード(GS=7)、高グレード(GS≧8)、局所浸潤(T3)、周囲臓器浸潤・遠隔転移(T4/N1/M1)病変の発生率には差を認めなかった。
前立腺がん死の0.7%と0.5%が、生検/治療関連
15年時の全死因死亡は、介入群が4万5,084例(23.2%、95%CI:23.0~23.4)、対照群は5万336例(23.3%、23.1~23.5)であり、両群間に有意な差はなかった(RR:0.97、95%CI:0.94~1.01、p=0.11)。
また、前立腺がん死のうち、介入群の8例(0.7%)と対照群の7例(0.5%)が、診断的生検または前立腺がんの治療に関連した有害事象によるものであった。
著者は、「前立腺がんのスクリーニング検査を検討する政策立案者は、前立腺がんの過剰診断や過剰治療に関連する潜在的な有害作用との比較で、このわずかな死亡の減少を考慮する必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)