カナダ・マギル大学のRenata Iskander氏らは、がんの臨床試験に参加した患者と参加しなかった患者の全生存期間(OS)を比較した研究についてシステマティック・レビューとメタ解析を行い、全体として試験参加群におけるOSの改善が示唆されたが、バイアスや交絡因子を考慮した研究に限定するとOSに対するベネフィットは認められなかったことを示した。がん患者が臨床試験に参加することが、試験に参加せず通常の治療を受けた場合と比較してOSの延長と関連するかどうかは明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2024年5月20日号掲載の報告。
OSを比較した研究をメタ解析
研究グループは、PubMedおよびEmbaseを用い、がん患者を対象とし、臨床試験参加者(試験参加群)と試験に参加せず通常の治療を受けた患者(通常治療群)の生存転帰を比較した研究のうち、2000年1月1日~2022年8月31日に発表された英語の論文を検索した。主なキーワードは、cancer、oncology、clinical trial、retrospective cohort、trial participation、trial effect、participation bias、nonparticipant、nontrialなどである。また、検索で得られた文献に引用されている文献、ならびに検索で得られた文献を引用している文献についても調査した。
適格基準は、ハザード比(HR)を用いて試験参加群(無作為化試験かは問わない)と通常治療群のOSを比較していること、治療には薬剤/生物学的製剤が含まれることであった。2人の研究者が独立して、Covidenceソフトウエアを用いて解析対象とする研究のスクリーニング、データの抽出および方法論的な質の評価を行った。
主要アウトカムは、試験参加群と通常治療群のOSのHRで、DerSimonian-Lairdランダム効果モデルを用いてメタ解析を実施した。
バイアスや交絡因子を考慮した研究では、試験参加によるOSに対する有益性は減少
174件の論文について適格性を評価した結果、39件の研究(計85件の比較)がメタ解析に含まれた。
85件の比較のうち、32件は試験効果の測定を目的としたものであった(本論文において、試験効果とは、治療効果[臨床試験における介入群への割り付けによってもたらされたアウトカムに対する試験参加の効果]と、参加効果[臨床試験における介入群への割り付けによって媒介されない試験参加の効果]を組み合わせたものと定義されている)。また、通常治療群のデータソースは、レジストリが67件、医療記録が18件であり、サンプルサイズの中央値は試験参加群が209例、通常治療群が409例であった。
メタ解析の結果、試験デザインや質に関係なくすべての研究をプールした場合、試験参加群と通常治療群のOSのHRは0.76(95%信頼区間[CI]:0.69~0.82)であり、試験参加群でOSが有意に改善した。
一方、試験参加群と通常治療群を適格基準に一致させた研究のみをプールすると、試験参加群のOSに対するベネフィットは減少した(HR:0.85、95%CI:0.75~0.97)。また、質の高い研究のみをプールした場合、試験参加群でOSの改善は認められず(0.91、0.80~1.05)、潜在的な出版バイアスにより推定値を調整した場合も同様であった(0.94、0.86~1.03)。
(医学ライター 吉尾 幸恵)