慢性腎臓病(CKD)を伴う2型糖尿病患者は、腎不全、心血管イベント、死亡のリスクが高いが、GLP-1受容体作動薬セマグルチドによる治療がこれらのリスクを軽減するかは知られていない。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のVlado Perkovic氏らFLOW Trial Committees and Investigatorsは「FLOW試験」において、プラセボと比較してセマグルチドは、主要腎疾患イベントの発生が少なく、腎特異的イベントや心血管死、全死因死亡のリスクを低減することを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年5月24日号に掲載された。
28ヵ国387施設の無作為化プラセボ対照試験
FLOW試験は、28ヵ国387施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2019年6月~2021年5月に参加者を募集した(Novo Nordiskの助成を受けた)。
対象は、2型糖尿病とCKDを有する患者とし、推算糸球体濾過量(eGFR)が50~75mL/分/1.73m
2で尿中アルブミン-クレアチニン比(アルブミンはミリグラム、クレアチニンはグラムで測定)が>300~<5,000、またはeGFRが25~50mL/分/1.73m
2で尿中アルブミン-クレアチニン比が>100~<5,000と定義した。
被験者を、セマグルチド1.0mgを週1回皮下投与する群、またはプラセボ群に無作為に割り付けた。
主要アウトカムは、主要腎疾患イベント(major kidney disease event)であり、腎不全(透析、移植、eGFR<15mL/分/1.73m
2)の発生、eGFRのベースラインから50%以上の低下、腎臓関連の原因または心血管関連の原因による死亡の複合と定義した。
主要アウトカムの相対リスクが有意に低下
3,533例(平均[±SD]年齢66.6±9.0歳、女性30.3%)を登録し、セマグルチド群に1,767例、プラセボ群に1,766例を割り付けた。中間解析の結果に基づき、独立データ安全性監視委員会は有効性について試験の早期終了を勧告し、試験終了時の追跡期間中央値は3.4年だった。
主要アウトカムのイベント発生の頻度は、セマグルチド群で低く(初回イベント:セマグルチド群331件[5.8/100人年]vs.プラセボ群410件[7.5/100人年])、主要アウトカムの相対リスクはセマグルチド群で24%低かった(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.66~0.88、p=0.0003)。
また、主要アウトカムの腎特異的構成要素の複合(HR 0.79、95%CI 0.66~0.94)および心血管死(0.71、0.56~0.89)についても、結果は主要アウトカムと同様であった。
eGFR年間変化率の勾配、主な心血管イベント、全死因死亡も良好
3つの確認のための主な副次アウトカムは、いずれもセマグルチド群で良好だった。eGFRの無作為化から試験終了までの平均年間変化率の傾きの程度(eGFR slope)は、プラセボ群に比べセマグルチド群で1.16mL/分/1.73m
2(95%CI:0.86~1.47)低く、減少の仕方が緩徐であった(p<0.001)。主な心血管イベント(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心血管死の複合)のリスクは、セマグルチド群で18%低く(HR:0.82、95%CI:0.68~0.98、p=0.029)、全死因死亡のリスクは20%低かった(0.80、0.67~0.95、p=0.01)。
重篤な有害事象の報告は、プラセボ群に比しセマグルチド群で少なかった(49.6% vs.53.8%)。一方、試験薬の恒久的な投与中止の原因となった有害事象の頻度はセマグルチド群で高かった(13.2% vs.11.9%)。
著者は、「これらの知見に基づくと、2型糖尿病とCKDを有する患者に対するセマグルチドの使用は、腎保護作用とともに、心血管リスクの低減に有効である可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)