心臓手術を受ける高齢患者において、脳電図(EEG)ガイド下で脳波の抑制(suppression)を最小限にして行う麻酔投与は、通常ケアと比較して術後せん妄の発生を抑制しなかった。カナダ・モントリオール大学のAlain Deschamps氏らCanadian Perioperative Anesthesia Clinical Trials Groupが「Electroencephalographic Guidance of Anesthesia to Alleviate Geriatric Syndromes(ENGAGES)試験」の結果を報告した。術中の脳波の抑制は、全身麻酔の投与量が過剰であることを示唆するとともに、術後せん妄と関連することが先行研究で示されていた。JAMA誌2024年7月9日号掲載の報告。
カナダの4病院で無作為化試験、通常ケアと比較
研究グループは、心臓手術を受ける高齢患者において、脳波の抑制を最小限にして行うEEGガイド下麻酔投与が、術後せん妄の発生を低減するかについて、多施設共同実臨床評価者患者盲検無作為化試験を行った。
2016年12月~2022年2月に、カナダの4病院で心臓手術を受ける60歳以上の高齢患者を募り、EEGガイド下麻酔投与群または通常ケア群に1対1の割合(病院で層別化)で割り付けた。追跡調査は2023年2月まで行った。
術中に麻酔薬濃度と脳波抑制時間を測定。主要アウトカムは、術後1~5日目のせん妄とし、副次アウトカムはICU入室期間、入院期間などとした。重篤な有害事象として、術中覚醒、合併症(大出血、脳卒中、胸骨創感染など)、30日死亡などを評価した。
術後1~5日目のせん妄、EEGガイド下群18.15%、通常ケア群18.10%
患者1,140例(年齢中央値70歳[四分位範囲[IQR]:65~75]、女性282例[24.7%])が無作為化され(EEGガイド下群567例、通常ケア群573例)、1,131例(99.2%)が主要アウトカムの評価を受けた。
術後1~5日目のせん妄の発生は、EEGガイド下群102/562例(18.15%)、通常ケア群103/569例(18.10%)であった(群間差:0.05%、95%信頼区間[CI]:-4.57~4.67)。
EEGガイド下群は通常ケア群と比較して、揮発性麻酔薬の最小肺胞濃度中央値が0.14(95%CI:0.13~0.15)低く(0.66 vs.0.80)、EEGに基づく脳波抑制の総時間中央値が7.7分(95%CI:4.7~10.6)短かった。
ICU入室期間中央値に、有意な群間差はなかった(群間差:0日、95%CI:-0.31~0.31)。入院期間中央値についても有意な群間差はなかった(群間差:0日、95%CI:-0.94~0.94)。
術中に覚醒した患者はいなかった。合併症はEEGガイド下群64/567例(11.3%)、通常ケア群73/573例(12.7%)に、また30日死亡は8/567例(1.4%)、通常ケア群13/573例(2.3%)に発生した。
(ケアネット)