米国・カリフォルニア大学デービス校のNicholas S. Card氏らは、重度の構音障害を有する筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者1例において、皮質内に埋め込んだ電極を介して発話の神経活動を文字に変換し出力するスピーチ・ニューロプロテーゼ(speech neuroprosthesis)が、短時間のトレーニングで会話に適したレベルの性能に達したことを報告した。ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)は、発話に関連する皮質活動を文字に変換しコンピュータの画面上に表示することにより、麻痺を有する人々のコミュニケーションを可能にする。BCIによるコミュニケーションは、これまで広範なトレーニングが必要で精度も限られていた。NEJM誌2024年8月15日号掲載の報告。
発症後5年の45歳ALS患者に、微小電極4個を左中心前回に埋め込み
研究グループは、ALS発症から5年、四肢不全麻痺と重度の運動障害性構音障害を有する45歳の男性(ALS機能評価スケール改訂版スコア[範囲:0~48、高スコアほど機能は良好]は23)の左中心前回(発話に関連する運動活動を調整する重要な大脳皮質領域)に、4個の微小電極アレイを外科的に埋め込み、256個の皮質電極を介して神経活動を記録した。
微小電極アレイは、1個の大きさが3.2mm×3.2mmで、64個の電極が8×8のグリッド状に配置されており、専用器を用いて大脳皮質に1.5mm埋設された。
2023年7月に手術(埋め込み)が行われ、25日後から32週間にわたり84回のセッション(1日1セッション)でデータを収集した。
各セッションでは、指示された課題(患者が視覚的または音声的な合図の後に単語を言おうとする)および会話モード(患者が好きなことを言おうとする)において、患者が何かを言おうとしたときの神経活動を解読し、解読した単語をコンピュータの画面上に表示した後、テキスト読み上げソフトウェアを用いてALS発症前の患者の声に似せた音声で発声された。
最終的に97.5%の精度を達成
使用初日(手術後25日)において、患者が50単語から構成された文の発話を試みた結果、スピーチ・ニューロプロテーゼは99.6%の精度を達成した。
2回目のセッションでは、スピーチ・ニューロプロテーゼの語彙を50単語からほぼすべての英語を網羅する12万5,000単語以上に増やし、1.4時間のシステムトレーニングを行ったところ、患者の発話を90.2%の精度で解読した。
さらにトレーニングデータを追加した結果、スピーチ・ニューロプロテーゼは埋め込み後8.4ヵ月にわたって97.5%の精度を維持した。この間に患者は合計248時間以上、1分当たり約32単語の速度で会話をした。
(医学ライター 吉尾 幸恵)