米国では過去20年間に、一般市民におけるオピオイド使用障害の増加に伴い、妊婦での本疾患の発生も著明に増えているが、併用薬の周産期の安全性データが不十分であるためブプレノルフィンの単独投与が推奨されている。米国・ハーバード大学医学大学院のLoreen Straub氏らは、妊娠初期のブプレノルフィン単剤投与と比較してブプレノルフィンとナロキソンの併用投与は、新生児および母体の転帰が同程度か、場合によってはより良好であり、オピオイド使用障害の安全な治療選択肢であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年8月12日号に掲載された。
米国のコホート研究
研究グループは、出産前のブプレノルフィンとナロキソン併用投与による周産期の転帰の評価を目的に、人口ベースのコホート研究を行った(米国国立薬物乱用研究所[NIDA]の助成を受けた)。
解析には、2000~18年の米国のメディケイド受給者の医療利用データを用いた。妊娠第1三半期に、ブプレノルフィン+ナロキソンの併用投与を受けた妊婦3,369例(平均年齢28.8[SD 4.6]歳)と、ブプレノルフィン単剤または併用からブプレノルフィン単剤投与に切り替えた妊婦5,326例(28.3[4.5]歳)を対象とした。
新生児では、13の主な臓器特異的先天奇形(腹壁、中枢神経系、眼、耳、消化器、生殖器、四肢など)と心奇形のほか、低出生体重、新生児薬物離脱症候群、新生児集中治療室入室、早産、呼吸器症状、在胎不当過小について評価し、母体の転帰として帝王切開による分娩と重度の疾患(分娩後30日以内の急性心不全、急性腎不全、急性肝疾患、急性心筋梗塞、急性呼吸窮迫症候群/呼吸不全、播種性血管内凝固/凝固障害、昏睡、せん妄、産褥期脳血管障害など)への罹患を検討した。
新生児薬物離脱症候群のリスクが低い、母体の重度疾患は同程度
ブプレノルフィン+ナロキソン併用群はブプレノルフィン単剤群に比べ、新生児薬物離脱症候群(絶対リスク:37.4% vs.55.8%、重み付け相対リスク:0.77[95%信頼区間[CI]:0.70~0.84])のリスクが低く、新生児集中治療室入室(30.6% vs.34.9%、0.91[0.85~0.98])および在胎不当過小(10.0% vs.12.4%、0.86[0.75~0.98])のリスクはわずかだが低かった。
母体の重度疾患の発生率は両群で同程度だった(絶対リスク:2.6% vs.2.9%、重み付け相対リスク:0.90[95%CI:0.68~1.19])。
主な先天奇形や心奇形、帝王切開のリスクには差はない
主な先天奇形(絶対リスク:5.2% vs.5.1%、重み付け相対リスク:0.95[95%CI:0.73~1.25])、心奇形(1.4% vs.1.3%、1.06[0.62~1.82])、低出生体重(8.5% vs.7.6%、1.07[0.91~1.25])、早産(14.9% vs.13.1%、1.06[0.94~1.19])、呼吸器症状(12.7% vs.11.4%、1.04[0.91~1.18])、および帝王切開(35.0% vs.32.7%、1.05[0.98~1.12])のリスクには両群間に差を認めなかった。
著者は、「これらの知見は、両薬剤とも妊娠中のオピオイド使用障害治療の妥当な選択肢であるとの見解を支持し、併用治療における意思決定の柔軟性を肯定するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)