オピオイド使用障害の妊婦では、ブプレノルフィンの投与はメサドンと比較して、新生児の有害アウトカム発生のリスクは低下するが、母体における有害アウトカムのリスクに差はないことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のElizabeth A. Suarez氏らの調査で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年12月1日号で報告された。
米国メディケイド受給者対象のコホート研究
研究グループは、オピオイド使用障害の妊婦において、2つのオピオイド作動薬が新生児および母体のアウトカムに及ぼす影響を比較する目的で、コホート研究を行った(米国国立薬物乱用研究所[NIDA]の助成を受けた)。
対象は、2000~18年に米国の公的保険(メディケイド)に加入していた47州とワシントンDCの妊婦であった。2つの薬剤への曝露は、妊娠前期(妊娠19週まで)、妊娠後期(妊娠20週~分娩前日)、分娩前30日間に評価が行われた。
新生児の有害アウトカムは、新生児薬物離脱症候群、早産、在胎不当過小、低出生時体重とされた。また、母体の有害アウトカムは、帝王切開と重度の母体合併症(妊娠に起因、または妊娠によって悪化した潜在的に生命を脅かす病態の複合)であった。
新生児および母体のアウトカムのリスク比は、傾向スコアのオーバーラップ重み付け法を用いて交絡因子で補正された。
妊娠前期と後期で、有害アウトカムの発生状況が一致
生児出生の妊娠254万8,372件が解析の対象となった。妊娠前期に1万704人がブプレノルフィン、4,387人がメサドンの曝露を受けていた。また、妊娠後期には1万1,272人がブプレノルフィン、5,056人がメサドンに曝露されていた(分娩前30日間は、それぞれ9,976人および4,597人)。
分娩前30日間の曝露における新生児薬物離脱症候群の発生は、ブプレノルフィン曝露児の52.0%、メサドン曝露児の69.2%で認められ(補正後相対リスク[aRR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.71~0.75)、ブプレノルフィン曝露児で良好だった。
妊娠前期の曝露における早産の発生は、ブプレノルフィン曝露児の14.4%、メサドン曝露児の24.9%で(aRR:0.58、95%CI:0.53~0.62)、また在胎不当過小の発生がそれぞれ12.1%および15.3%に(0.72、0.66~0.80)、低出生時体重の発生は8.3%および14.9%で(0.56、0.50~0.63)、いずれもブプレノルフィン曝露児で少なかった。
また、妊娠前期の曝露における帝王切開の発生は、ブプレノルフィン曝露妊婦の33.6%、およびメサドン曝露妊婦の33.1%に(aRR:1.02、95%CI:0.97~1.08)、また、重度の母体合併症の発生はそれぞれ3.3%および3.5%で(0.91、0.74~1.13)、いずれも両群間に差はみられなかった。
妊娠後期の有害アウトカムの結果は妊娠前期と一致しており、早産(ブプレノルフィン曝露児14.3% vs.メサドン曝露児25.0%、aRR:0.57[95%CI:0.53~0.62])、在胎不当過小(13.0% vs.15.6%、0.75[0.69~0.82])、低出生時体重(8.2% vs.14.4%、0.56[0.50~0.62])の発生はいずれもブプレノルフィン曝露児で良好で、帝王切開(33.1% vs.32.7%、1.03[0.97~1.09])、重度の母体合併症(3.4% vs.3.6%、0.93[0.77~1.14])の発生については、2つの薬剤の曝露妊婦で差がなかった。
著者は、「この結果は、子宮内でのブプレノルフィン曝露がメサドン曝露よりも新生児に良好なアウトカムをもたらすとする先行研究(MOTHER試験)の知見を支持するものである」とし、「この差の生物学的メカニズムは不明だが、ブプレノルフィン(部分作動薬)とメサドン(完全作動薬)の薬理作用メカニズムの違いが、これらの知見の妥当性を裏付ける可能性がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)