セマグルチド、心不全で過体重/肥満ASCVDのMACE低下/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2024/09/11

 

 アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)で過体重または肥満の患者において、GLP-1受容体作動薬セマグルチドはプラセボと比較し、心不全の有無やそのサブタイプにかかわらず、主要有害心血管イベント(MACE)と心不全複合エンドポイントの発生を減少させることが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJohn Deanfield氏らSELECT Trial Investigatorsが実施した「SELECT試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年8月24日号に掲載された。

41ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験

 SELECT試験は、41ヵ国804施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年10月~2021年3月に参加者の無作為化を行った(Novo Nordiskの助成を受けた)。

 年齢45歳以上、BMI値≧27の心血管疾患(心筋梗塞の既往歴、虚血性または出血性脳卒中の既往歴、症候性末梢動脈疾患)患者1万7,604例(平均年齢61.6[SD 8.9]歳、男性72.3%、平均BMI値33.4[5.0])を登録した。

 これらの患者のうち8,803例を、セマグルチド2.4mgを目標用量として週1回皮下投与(16週間)で漸増する群に、8,801例をプラセボ群に無作為に割り付けた。

 主要アウトカムは、MACE(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心血管死の複合)、心不全複合エンドポイント(心血管死、心不全による入院または緊急受診)、心血管死、全死因死亡とした。

すべての評価項目を改善

 1万7,604例中1万3,314例は登録時に心不全の既往歴がなく、4,286例(24.3%)は心不全の既往歴を有していた。心不全患者のうち2,273例(53.0%)は駆出率が保たれた心不全、1,347例(31.4%)は駆出率が低下した心不全、666例(15.5%)は分類不能の心不全だった。心不全の有無でベースラインの背景因子に差はなく、心不全患者は臨床イベントの罹患率が高かった。

 セマグルチドは、心不全のない患者と比較して心不全患者において4つの評価項目のすべてを改善した。MACEのハザード比(HR)は0.72(95%信頼区間[CI]:0.60~0.87)、心不全複合エンドポイントのHRは0.79(0.64~0.98)、心血管死のHRは0.76(0.59~0.97)、全死因死亡のHRは0.81(0.66~1.00)であった。

 セマグルチドによる治療は、駆出率が低下した心不全(MACEのHR:0.65[95%CI:0.49~0.87]、心不全複合エンドポイントのHR:0.79[0.58~1.08])と、駆出率が保たれた心不全(0.69[0.51~0.91]、0.75[0.52~1.07])の双方で予後を改善したが、駆出率が低下した心不全患者は駆出率が保たれた心不全患者よりも絶対的イベント発生率が高かった。

投与中止率は駆出率が保たれた心不全で低い

 重篤な有害事象は、心不全のサブタイプにかかわらず、プラセボ群に比べセマグルチド群で少なかった。また、セマグルチド群では、有害事象による恒久的な投与中止は主に胃腸障害によるもので、プラセボ群よりも高率であった(心不全患者:14.7% vs.9.0%、非心不全患者:17.2% vs.7.9%)。セマグルチド群の投与中止率は、駆出率が低下した心不全(17.4%)や分類不能の心不全(16.2%)に比べ、駆出率が保たれた心不全(12.7%)で低かった。

 著者は、「この結果は、過体重または肥満で心不全を有するASCVD患者では、事前に詳細な心血管リスクの層別化を行う必要なしに、セマグルチドのベネフィットを受ける可能性があることを示唆する」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 原田 和昌( はらだ かずまさ ) 氏

東京都健康長寿医療センター 副院長

J-CLEAR理事