中等症~重症の機能性僧帽弁閉鎖不全症を有する心不全で薬物療法を受けている患者では、MitraClipデバイスを用いた経カテーテル僧帽弁修復術を追加することにより、薬物療法単独と比較して24ヵ月後の心不全による初回または再入院と心血管死の複合の発生率が改善し、12ヵ月後の健康状態が良好であることが、ドイツ・シャリテ大学のStefan D. Anker氏らRESHAPE-HF2 Investigatorsが実施した「RESHAPE-HF2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年8月31日号に掲載された。
国際的な医師主導型無作為化対照比較試験
RESHAPE-HF2試験は、9ヵ国30施設で実施した医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2015年3月~2023年10月に参加者のスクリーニングを行った(Abbott Laboratoriesの助成を受けた)。
ガイドライン推奨の治療を行っても心不全の症状および徴候があり、グレード3+または4+の機能性僧帽弁閉鎖不全症を有し、左室駆出率が20~50%で、血漿中のナトリウム利尿ペプチド濃度の上昇(BNP濃度≧300pg/mLまたはNT-proBNP濃度≧1,000pg/mL)を認める患者を対象とした。
被験者を、経カテーテル僧帽弁修復術+薬物療法を行う群(デバイス群)または薬物療法のみを行う群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。
主要エンドポイントは3項目で、(1)24ヵ月間の心不全による初回または再入院と心血管死の複合の発生率、(2)24ヵ月間の心不全による初回または再入院の発生率、(3)カンザスシティ心筋症質問票総合サマリー(KCCQ-OS、0~100点、点数が高いほど健康状態が良好)スコアのベースラインから12ヵ月の時点までの変化量であった。
3項目とも有意に改善
505例が登録され、デバイス群に250例、対照群に255例が無作為化された。ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は70(±10)歳、20%が女性で、35%が非虚血性心筋症、29%が心臓再同期療法デバイスを装着していた。左室駆出率中央値は31%(四分位範囲[IQR]:25~37)、KCCQ-OSスコア中央値は43点(IQR:26~63)だった。
24ヵ月の時点で、心不全による初回または再入院と心血管死の複合の発生率は、対照群が100人年当たり58.9件であったのに対し、デバイス群は37.0件と有意に低かった(率比:0.64、95%信頼区間[CI]:0.48~0.85、p=0.002)。
24ヵ月時の心不全による初回または再入院の発生率は、対照群が100人年当たり46.6件だったのに対し、デバイス群は26.9件であり有意に低率だった(率比:0.59、95%CI:0.42~0.82、p=0.002)。
また、12ヵ月後のKCCQ-OSスコアの平均値の変化量は、対照群では8.0(±24.5)点の上昇であったのに比べ、デバイス群は21.6(±26.9)点上昇しており有意に良好だった(平均群間差:10.9点、95%CI:6.8~15.0、p<0.001)。
手技に関連した有害事象は4件
12ヵ月の時点で、僧帽弁閉鎖不全症がグレード2+以下の患者の割合(デバイス群90.4% vs.対照群36.1%、p<0.001)、およびNYHA心機能分類クラスI/IIの心不全の患者の割合(74.5% vs.58.5%、p<0.001)は、いずれもデバイス群で高かった。
全死因死亡(デバイス群22.3% vs.対照群29.6%)、心血管系の原因による死亡(17.8% vs.20.4%)には両群間で差がなかったが、心血管系以外の原因による死亡(4.5% vs.9.3%、p=0.04)、予期せぬMitraClip留置(2.0% vs.6.5%、p=0.004)、すべての予期せぬ経カテーテル僧帽弁修復術(2.0% vs.10.0%、p<0.001)はデバイス群で少なかった。
デバイス群では、手技に関連した有害事象が4件(1.6%)報告された。内訳は、血腫が2件、心嚢液貯留が1件、右房穿孔が1件(デバイス留置終了後に開胸手術)であった。
著者は、「機能性僧房弁閉鎖不全症が未治療のままであると、心不全の増悪や不良な予後につながる心臓の構造や機能の変化を引き起こす可能性があるため、今回の試験の知見は重要である」と述べ、「ガイドラインに準拠した薬物療法と併用した経カテーテル僧帽弁修復術が、心不全による入院を1件予防するための治療必要数(number needed to treat)はわずか5.1件であった」としている。
(医学ライター 菅野 守)