急性脳血管障害の患者では、発熱の標準治療と比較して、自動体表温度管理装置(Arctic Sun体温管理システム)を用いた予防的正常体温療法による発熱予防は、発熱負荷を効果的に減少させるが、機能回復には改善を認めないことが、米国・Boston University Chobanian and Avedisian School of MedicineのDavid M. Greer氏らが実施した「INTREPID試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年9月25日号に掲載された。
7ヵ国のICUの無作為化試験
INTREPID試験は、7ヵ国の43の集中治療室(ICU)で実施した非盲検無作為化試験であり、2017年3月~2021年4月に参加者を登録した(Becton, Dickinson and Companyの助成を受けた)。
年齢18~85歳、急性脳卒中でICUに入室し、脳卒中発症前は機能的に自立していた患者(修正Rankin尺度[mRS]スコアが0~2点、81~85歳の患者については0点)を対象とした。
被験者を、発熱予防を受ける群または標準治療を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。発熱は、体温38.0℃以上と定義した。発熱予防群では、目標体温を37.0℃とし、ICUで14日間またはICU退室まで、自動体表温度管理装置による体温管理療法を行った。標準治療群では、38℃以上の体温の発生時に標準化された段階的な発熱治療を実施した。
主要アウトカムは1日平均発熱負荷とし、37.9℃以上の体温曲線下面積(総発熱負荷)を急性期の総時間数で割り、24時間を乗じた値(℃・時)と定義した。主な副次アウトカムは、mRS(0点[症状なし]から6点[死亡]までの7段階のうち5点[重度障害]と6点を1つに統合した6カテゴリー)のシフト分析による3ヵ月間の機能回復であった。
予定されていた中間解析で、発熱予防群における主な副次アウトカム(機能回復)の無益性が示されたため、患者登録を中止した。
3つのサブタイプとも発熱負荷が良好
677例(年齢中央値62歳、女性345例[51%])を登録し、発熱予防群に339例、標準治療群に338例を割り付けた。677例のうち254例が脳梗塞、223例が脳出血、200例がくも膜下出血だった。433例(64%)が12ヵ月間の試験を完了した。
1日平均発熱負荷は、標準治療群が0.73(SD 1.1)℃・時(範囲:0.0~10.3)であったのに対し、発熱予防群は0.37(1.0)℃・時(0.0~8.0)と有意に低かった(群間差:-0.35°C・時、95%信頼区間[CI]:-0.51~-0.20、p<0.001)。
また、脳卒中サブタイプ別の発熱負荷の群間差は、脳梗塞が-0.10°C・時(95%CI:-0.35~0.15)、脳出血が-0.50°C・時(-0.78~-0.22)、くも膜下出血が-0.52°C・時(-0.81~-0.23)といずれも発熱予防群で良好だった(すべてp<0.001[Wilcoxonの順位和検定])。
一方、3ヵ月の時点で、機能回復には両群間に有意な差を認めなかった(mRSスコア中央値:発熱予防群4.0点vs.標準治療群4.0点、機能的アウトカムの良好な転換のオッズ比:1.09、95%CI:0.81~1.46、p=0.54)。
主要有害事象の年間発生率は同程度
急性期におけるすべての主要有害事象(死亡、肺炎、敗血症、悪性脳浮腫)の発生率には両群間で顕著な差はなく、試験期間を通じた発生率(発熱予防群:3ヵ月時47.4%、6ヵ月時48.9%、12ヵ月時49.5%、標準治療群:44.9%、47.9%、48.5%)にも差を認めなかった。
感染症の発生率は、発熱予防群(33.8%)と標準治療群(34.5%)で同程度であった。心イベント(14.5% vs.14.0%)、呼吸器障害(24.5% vs.20.5%)についても両群間に顕著な差はなかった。また、悪寒が発熱予防群で85.5%、標準治療群で24.3%にみられ、発熱予防群の26例(7.7%)が悪寒により治療を中止した。
著者は、「本研究は、発熱リスクの高い患者、とくに72時間以上のICUでの治療を要する重症患者を対象としたが、標準治療群の25%は発熱せず、両群は慎重にマッチングされたため発熱予防群のかなりの割合の患者も発熱しにくかった可能性があり、発熱予防はこれらの患者のアウトカムには影響しない可能性がある」と述べ、「発熱予防が、発熱負荷のある患者または発熱の可能性が非常に高い患者においてのみ、アウトカムを改善するかどうかについては、さらなる検討が必要である」としている。
(医学ライター 菅野 守)