非機器的早期運動療法はDVT発生率を低減【論文から学ぶ看護の新常識】第1回

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公開日:2025/02/05

看護師であり、医学博士、研究者でもある星野氏と松石氏が、看護ケア、治療、マネジメントの根拠となる看護論文をピックアップ。「結局、今は何が正しいの?」というモヤモヤを解決し、迷わずに実践できるための情報をお届けします!

非機器的早期運動療法はDVT発生率を低減

非機器的早期運動療法は、入院患者における深部静脈血栓症(DVT)の発生率を低減する効果があることが示された。Julia Raya-Benitez氏らによる研究で、International Journal of Nursing Studies誌の2025年1月号に掲載された。

「入院患者における深部静脈血栓症発生率低減のための非機器的早期運動療法の有効性:システマティックレビューとメタアナリシス」

研究グループは、非機器的早期運動療法のDVT発生率低減効果を、システマティックレビューメタアナリシスで評価した。7つのランダム化比較試験(RCT)が含まれ、対象者は1,774例。主要な評価指標をDVTの発生率とし、全身的、局所的、遠隔的な非機器的早期運動療法の有効性を比較した。

研究の結果、非機器的早期運動療法は、通常ケアと比較してDVT発生率を有意に低下させた(リスク比[RR]: 0.55、95%信頼区間[CI]: 0.41~0.73、p < 0.0001)。特に、全身的運動療法(RR: 0.54、95%CI: 0.38~0.78、p = 0.001)および遠隔運動療法(RR: 0.25、95%CI: 0.07~0.86、p = 0.03)が効果的であることが確認された。一方で、局所運動療法は、通常ケアとの比較で統計的に有意な効果は示されなかった(RR: 0.68、95%CI: 0.42~1.12、p = 0.13)。運動は1日2~3回、各セッション10~30分程度で行われ、実施期間は6日から6週間だった。

この方法は患者のDVT予防だけでなく、入院期間の短縮や合併症のリスク低減にも効果があることが期待されている。

松石‘s POINT!

看護では最高峰の雑誌への投稿です。

非機器的早期運動療法とは、特別な機器を使わずに行う運動療法を指し、本研究では患者が入院してから24時間以内に開始されるものと定義されています。これはまさに急性期における看護師の介入時期と方法に合致しているといえます。

この療法には3つの種類があります。まず1つ目は、足首の屈伸などリスク部位周辺を動かす局所運動療法です。静脈ポンプ作用を活性化して血流を直接促進する効果が見込まれます。次に、歩行訓練など全身を動かす全身的運動療法があります。これは血液循環を改善し、心拍出量を増やして血流の停滞を防ぐ効果が期待できます。最後に、上肢や体幹のストレッチのようにリスク部位以外を動かす遠隔運動療法があります。こちらは間接的に全身の血流を増加させる可能性があります。

本研究では、こうした運動の効果がデータによって裏づけられ、特に全身的運動療法や遠隔運動療法がDVTの予防に有効であることが示されました。つまり、足首などのリスクの高い部位を十分に動かせない場合でも、全身的あるいは遠隔の運動を取り入れることで同様の効果が得られるため、ベッドサイドでも実用性の高い介入法といえます。

一方で、今回解析対象の文献には、疼痛管理など複合的介入を行っているものも含まれており、今後さらに質の高い研究が求められます。

ただし少なくとも本研究の結果をみる限り、看護師が日常的に実施している関節可動域訓練などの非機器的早期運動療法の重要性を再確認するものといえます。

講師紹介

松石 雄二朗 ( まついし ゆうじろう ) 氏東京情報大学 看護学部 成人・高齢者看護領域 准教授

[略歴]

2012年聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業後、聖路加国際病院 心疾患集中治療センター(ICCU)、後筑波大学附属病院 集中治療室(ICU)及び小児集中治療室(PICU)に勤務。 在職中に筑波大学大学院 人間総合科学研究科 疾患制御医学専攻(医学博士課程)修了後、聖路加国際大学大学院 看護学研究科 ニューロサイエンス看護学 助教を経て 現職。 SNSを通じた教育にも力を入れている。
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