出産する女性へのトラネキサム酸の予防投与はプラセボと比較して、生命を脅かす出血リスクを軽減することが認められ、血栓症のリスクを高めるというエビデンスは確認されなかった。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のKatharine Ker氏らAnti-fibrinolytics Trialists Collaborators Obstetric Groupが、無作為化比較試験のシステマティックレビューと個別被験者データ(IPD)を用いたメタ解析の結果で示した。トラネキサム酸は、臨床的に産後出血と診断された女性に推奨される治療薬であるが、出血を予防可能かについては不明であった。著者は、「出産するすべての女性にトラネキサム酸の使用を推奨するわけではないが、死亡リスクの高い女性では産後出血の診断前にトラネキサム酸の使用を検討すべきである」とまとめている。Lancet誌2024年10月26日号掲載の報告。
トラネキサム酸の無作為化プラセボ対照試験についてIPDメタ解析を実施
研究グループは、WHO国際臨床試験登録プラットフォーム(WHO International Clinical Trials Registry Platform)を用い、出産する女性を対象にトラネキサム酸の有効性を評価した無作為化プラセボ対照比較試験を、データベース開始から2024年8月4日まで検索した。適格基準は、前向き登録、対象例数500例以上、割り付けの手順および隠蔽化に関するバイアスリスクが低い試験とした。
各適格試験の研究者から匿名化されたIPDを提供してもらい、2人の研究者がデータを抽出するとともに、コクランバイアスリスクツール修正版を用いてバイアスリスクを評価した。
有効性の主要アウトカムは生命を脅かす出血(出産後24時間以内の出血に関する死亡または外科的介入[開腹術、塞栓術、子宮圧迫縫合または動脈結紮]の複合)、安全性の主要アウトカムは致死的または非致死的血栓塞栓症の発生であった。メタ解析には1段階法を用いた。
出血リスクは有意に減少、血栓塞栓症リスクはプラセボとの差なし
検索の結果、適格基準を満たした5件の臨床試験から計5万4,404例のデータが解析対象となった。4件において4万3,409例のIPDが得られ、1件については公表された試験報告書から1万995例の集計データを取得した。
解析対象のすべての試験は、バイアスリスクが低かった。
生命を脅かす出血は、トラネキサム酸群で2万7,300例中178例(0.65%)、プラセボ群で2万7,093例中230例(0.85%)に発生した(統合オッズ比[OR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.63~0.93、p=0.008)。トラネキサム酸の有効性が、生命を脅かす出血の潜在的リスク、分娩の種類、中等度または重度の貧血の有無または投与時期によって変化するというエビデンスは確認されなかった。
血栓塞栓症に関しては、トラネキサム酸群とプラセボ群との間に有意差は認められなかった。致死的または非致死的血栓塞栓症の発生は、トラネキサム酸群で2万6,571例中50例(0.2%)、プラセボ群で2万6,373例中52例(0.2%)であった(統合OR:0.96、95%CI:0.65~1.41、p=0.82)。
サブグループ解析において、有意な異質性は認められなかった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)