PIK3CA変異陽性、ホルモン受容体陽性、HER2陰性の局所進行または転移を有する乳がん患者の治療において、パルボシクリブ+フルベストラントにプラセボを加えた場合と比較して、パルボシクリブ+フルベストラントにPI3Kα阻害薬inavolisibを追加すると、無増悪生存期間(PFS)が有意に延長した一方で、一部の毒性作用の発生率が高いことが、英国・Royal Marsden Hospital and Institute of Cancer ResearchのNicholas C. Turner氏らが実施した「INAVO120試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年10月31日号に掲載された。
国際的な無作為化プラセボ対照第III相試験
INAVO120試験は、進行乳がんにおけるinavolisib追加の有用性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2020年1月~2023年9月に28ヵ国で患者を登録した(F. Hoffmann-La Rocheの助成を受けた)。
対象は、
PIK3CA変異陽性、ホルモン受容体陽性、HER2陰性の局所進行または転移を有する乳がんの女性(閉経の前/中/後かは問わない)または男性で、術後補助内分泌療法中または終了後12ヵ月以内に再発した患者であった。
被験者を、1次治療としてinavolisib(9mg、1日1回、経口投与)とパルボシクリブ+フルベストラントを併用投与する群(inavolisib群)、またはプラセボとパルボシクリブ+フルベストラントを併用投与する群(プラセボ群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。
主要評価項目は、担当医の評価によるPFS(無作為化から病勢進行または全死因死亡までの期間)であった。
全生存率は有意差がない
325例を登録し、inavolisib群に161例、プラセボ群に164例を割り付けた。全体の年齢中央値は54.0歳(範囲:27~79)、319例(98.2%)が女性、195例(60.0%)が閉経後女性であり、167例(51.4%)が3つ以上の臓器に転移を、260例(80.0%)が内臓(肺、肝、脳、胸膜、腹膜)転移を有し、269例(82.8%)が過去に術前または術後補助化学療法を受けていた。追跡期間中央値は、inavolisib群21.3ヵ月、プラセボ群21.5ヵ月だった。
PFS中央値は、プラセボ群が7.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.6~9.3)であったのに対し、inavolisib群は15.0ヵ月(11.3~20.5)と有意に延長した(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.43、95%CI:0.32~0.59、p<0.001)。また、感度分析として盲検下独立中央判定による無増悪生存期間の評価を行ったところ、結果は担当医判定と一致していた(0.50、0.36~0.68、p<0.001)。
一方、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月時の全生存率は、inavolisib群がそれぞれ97.3%、85.9%、73.7%、プラセボ群は89.9%、74.9%、67.5%であり、両群間に有意差を認めなかった。死亡のHR(inavolisib群vs.プラセボ群)は0.64(95%CI:0.43~0.97、p=0.03)であり、事前に規定された有意差の境界値(p<0.0098)を満たさなかった。
客観的奏効率はinavolisib群が58.4%、プラセボ群は25.0%(群間差:33.4%ポイント、95%CI:23.3~43.5)、奏効期間中央値はそれぞれ18.4ヵ月および9.6ヵ月(HR:0.57、95%CI:0.33~0.99)であった。
重篤な有害事象inavolisib群24.1%、試験薬投与中止6.8%
Grade3/4の有害事象は、inavolisib群が80.2%、プラセボ群は78.4%で発現した。このうちinavolisib群で多かったGrade3/4の有害事象として、高血糖(5.6% vs.0%)、口内炎/粘膜炎症(5.6% vs.0%)、下痢(3.7% vs.0%)を認め、Grade3/4の皮疹は両群とも観察されなかった。
重篤な有害事象はinavolisib群24.1%、プラセボ群10.5%、Grade5(致死性)の有害事象はそれぞれ3.7%および1.2%で発現し、有害事象による試験薬の投与中止は6.8%(inavolisib 6.2%、パルボシクリブ4.9%、フルベストラント3.1%)および0.6%(有害事象によるパルボシクリブ、フルベストラントの投与中止はない)で発現した。
著者は、「本研究では、これらの患者集団において、総投与量を用いたPI3Kα阻害薬(inavolisib)+CDK4/6阻害薬(パルボシクリブ)+内分泌療法(フルベストラント)の併用療法は、PFSを大幅に改善した。一部の有害事象の発現率が高いものの安全性プロファイルは良好であったことから、この治療法は新たな治療選択肢となる可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)