多剤耐性結核の家庭内感染予防、レボフロキサシンは有効か/NEJM

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2025/01/14

 

 ベトナムの多剤耐性(MDR)結核患者の家庭内接触者の感染予防において、プラセボと比較してレボフロキサシンの連日投与は、30ヵ月の時点での結核の発生率が低いものの、その差は有意ではなく、有害事象はレボフロキサシンで多かったがGrade3/4の頻度は同程度であることが、オーストラリア・シドニー大学のGreg J. Fox氏らが実施した「VQUIN MDR試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2024年12月19・26日合併号に掲載された。

ベトナムの無作為化対照比較試験

 VQUIN MDR試験は、ベトナムの都市部と農村部を含む10の省で行われた二重盲検無作為化対照比較試験であり、2016年3月~2019年8月に参加者のスクリーニングを実施した(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]の助成を受けた)。

 対象は、細菌学的に確認されたリファンピシン耐性またはMDRの結核菌(Mycobacterium tuberculosis)感染患者(過去3ヵ月以内に治療開始)の家庭内接触者であった。ツベルクリン皮膚検査陽性または免疫機能が低下している接触者を、年齢を問わず適格とした。

 被験者を、レボフロキサシンまたはプラセボを1日1回、180日間経口投与する群に無作為に割り付けた。錠剤は4週ごとに調剤され、1日の投与量は成人が体重1kg当たり10~15mg、小児は15~20mgで、最大投与量は750mgであった。

 主要エンドポイントは、30ヵ月以内に細菌学的に確認された結核とした。副次エンドポイントにはGrade3または4の有害事象、全死因死亡、薬剤耐性の獲得などが含まれた。

per-protocol集団でも差はない

 ITT集団として2,041例を登録し、レボフロキサシン群に1,023例、プラセボ群に1,018例を割り付けた。全体の年齢中央値は40歳(四分位範囲[IQR]:28~52、範囲:2~87)、36.0%が男性であり、1世帯当たりの接触者数中央値は1例(IQR:1~2、最大:13)だった。1,995例(97.7%)が30ヵ月の追跡を完了し、6ヵ月の試験レジメンを完遂したのはプラセボ群の82.9%に比べ、レボフロキサシン群は68.4%と低率であった(群間差:-14.5%ポイント、95%信頼区間[CI]:-19.4~-9.6)。

 30ヵ月の追跡期間中に、ITT集団ではレボフロキサシン群で6例(0.6%)、プラセボ群で11例(1.1%)に、細菌学的に確認された結核が発生した。発生率比は0.55(95%CI:0.19~1.62)であり、両群間に有意な差を認めなかった。また、臨床的に結核と診断された患者はレボフロキサシン群で1例、プラセボ群で2例であった(発生率比:0.49、95%CI:0.04~5.46)。

 per-protocol集団では、細菌学的に確認された結核がレボフロキサシン群で3例、プラセボ群で6例に発生し、発生率比は0.60(95%CI:0.15~2.40)だった。

 両群とも、結核性病変の発生率は、試験レジメンを完遂した患者よりも完遂しなかった患者で高かった。

耐性の獲得は認めない

 Gradeを問わない1つ以上の有害事象の報告は、プラセボ群で125例(13.0%)であったのに対し、レボフロキサシン群では306例(31.9%)と有意に多かった(リスク差:18.9%ポイント、95%CI:14.2~23.6、p<0.001)。

 重度(Grade3/4)の有害事象は、レボフロキサシン群で29例(3.0%)、プラセボ群で19例(2.0%)に発生した(リスク差:1.0%ポイント、95%CI:-0.3~2.4、p=0.14)。

 有害事象による恒久的な投与中止は、プラセボ群の11例(1.1%)に比べ、レボフロキサシン群は71例(7.4%)と有意に頻度が高かった(リスク差:6.3%ポイント、95%CI:4.3~8.2、p<0.001)。

 両群とも最終投与から21日以内の死亡の報告はなく、30ヵ月の追跡期間中に発生した7件の死亡(レボフロキサシン群4例、プラセボ群3例)は、専門家の臨床評価委員会によっていずれも結核とは関連がないと判定された。また、フルオロキノロン耐性の獲得は観察されなかった。

 著者は、「レボフロキサシンによる結核発生率の数値上の低下は、家庭内接触者における結核感染予防に、この薬剤が役割を持つ可能性を示唆しているが、推定される効果は明確ではなかった」「プラセボ群での結核発生率(1.1%)は、サンプルサイズ推定の根拠とした数値(3%)よりも低く、先行のコホート研究やメタ解析で報告された値よりもかなり低かった」「本試験で得られた知見を他の試験環境で得られた知見と組み合わせることで、さらに理解が深まるであろう」としている。

(医学ライター 菅野 守)