敗血症の成人患者の治療において、プラセボと比較して免疫調整薬thymosinα1は、28日以内の全死因死亡率を低下させず、90日全死因死亡率や集中治療室(ICU)内死亡率も改善しないが、60歳以上や糖尿病を有する患者では有益な効果をもたらす可能性があり、重篤な有害事象の発生率には両群間に差を認めないことが、中国・中山大学のJianfeng Wu氏らTESTS study collaborator groupが実施した「TESTS試験」で示された。研究の詳細は、BMJ誌2025年1月15日号で報告された。
中国の無作為化プラセボ対照第III相試験
TESTS試験は、thymosinα1は敗血症患者の死亡率を低減するかの検証を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2016年9月~2020年12月に中国の22施設で患者を登録した(Sun Yat-Sen University Clinical Research 5010 Programなどの助成を受けた)。
年齢18~85歳、Sepsis-3基準で敗血症と診断された患者1,106例を対象とし、thymosinα1の投与を受ける群に552例、プラセボ群に554例を無作為に割り付け、それぞれ12時間ごとに7日間皮下注射した。
主要アウトカムは、無作為化から28日の時点における全死因死亡とし、修正ITT集団(試験薬を少なくとも1回投与された患者)について解析した。
副次アウトカムもすべて有意差はない
試験薬の投与を受けなかった17例を除く1,089例(年齢中央値65歳[四分位範囲[IQR]:52~73]、男性750例[68.9%])を修正ITT集団とした(thymosinα1群542例、プラセボ群547例)。スクリーニングの時点で1,046例(96.1%)が抗菌薬の投与を受けており、APACHE-IIスコア中央値は14点(IQR:10~19)、SOFAスコア中央値は7点(5~10)だった。
28日全死因死亡は、thymosinα1群で127例(23.4%)、プラセボ群で132例(24.1%)に認め、両群間に有意な差はなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.77~1.27、p=0.93[log-rank検定])。また、90日全死因死亡率(thymosinα1群31.0% vs.プラセボ群32.4%、HR:0.94、95%CI:0.76~1.16、p=0.54)にも差はみられなかった。
ICU内死亡率(thymosinα1群8.5% vs.プラセボ群9.9%、p=0.40)、SOFAスコア変化率中央値(38% vs.40%、p=0.56)、28日間における新規感染症発症率(25.3% vs.26.1%、p=0.74)・機械換気を受けない日数中央値(19日vs.21日、p=0.15)・昇圧薬治療を受けない日数中央値(23日vs.23日、p=0.84)・持続的腎代替療法を受けない日数中央値(17日vs.19日、p=0.88)などの副次アウトカムもすべて両群間に有意差を認めなかった。
予想外の重篤な有害事象はない
事前に規定されたサブグループ解析では、主要アウトカムの発生率が年齢60歳未満ではthymosinα1群で高かった(HR:1.67、95%CI:1.04~2.67)が、60歳以上ではthymosinα1群で低く(0.81、0.61~1.09)、有意な交互作用を認めた(交互作用のp=0.01)。
また、糖尿病を有する集団ではthymosinα1群で主要アウトカムの発生率が低かった(HR:0.58、95%CI:0.35~0.99)が、糖尿病がない集団ではthymosinα1群で高く(1.16、0.87~1.53)、交互作用は有意であった(交互作用のp=0.04)。さらに、冠動脈性心疾患(p=0.06)および高血圧(p=0.06)を有する集団でも、thymosinα1群で主要アウトカムの発生率が低い傾向がみられた。
90日の追跡期間中に、少なくとも1つの有害事象が、thymosinα1群で360例(66.4%)、プラセボ群で370例(67.6%)に認め(p=0.70)、少なくとも1つの重篤な有害事象は、それぞれ145例(26.8%)および160例(29.3%)に発現した(p=0.38)。全体で最も頻度の高い有害事象は貧血(10.7%)で、次いで発熱(9.6%)、腹部膨満(5.4%)、凝固障害(4.8%)の順であった。試験期間中に、thymosinα1に起因する予想外の重篤な有害事象はみられなかった。
著者は、「thymosinα1が成人敗血症患者の死亡率を減少させるという明確なエビデンスは得られなかったが、本薬の良好な安全性プロファイルが確認された」「thymosinα1は60歳以上の患者や糖尿病などの慢性疾患を有する患者にも有益な効果をもたらす可能性があり、今後、これらの患者に焦点を当てた研究が進むと考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)