オーストラリア・カーティン大学のDaniel J. Weiss氏らは、マラリアの空間的に不均一な進展を追跡し、戦略的なマラリア対策に役立てる目的で、マラリアの感染有病率、発生率、死亡率に関する世界的な高解像度地図を作成した。この地図により、2000年代初頭からのマラリア対策への前例のない投資によって、マラリアがもたらす莫大な負担が回避されたが、アフリカの症例発生率は横ばいで推移しており、リスク人口の急速な増加によりアフリカの症例発生数は増加し、その結果として世界の熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)を病原体とする症例発生数は、大規模投資以前の水準に戻っていることが示された。研究の成果は、Lancet誌2025年3月22日号に掲載された。
2022年の症例発生数は2004年以降最多
研究グループは、2000~22年のデータを用いてマラリアの高解像度地図を作成した(ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの助成を受けた)。これは、2019年以来の最新版となる。
その結果、サハラ以南のアフリカにおけるマラリア感染有病率および症例発生率は、2015年以降、一貫して前年比の改善がみられず、停滞が続いていることが示された。
また、マラリア罹患の負担がサハラ以南のアフリカに集中しており、他の流行地域と比較してこの地域の人口が急増していることから、2022年の熱帯熱マラリア原虫を病原体とする症例発生数は2億3,480万例(95%不確実性区間[UI]:1億7,920万~2億9,900万)であり、2004年以降で最多であったと推定された。
2022年のパキスタンの大洪水後に感染拡大
これらの結果にもかかわらず、マラリアによる死亡者数は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けた2020~22年を除き、2015年以降もサハラ以南のアフリカ、そして世界的にも減少を続けた。
同様に、世界的には改善が停滞しているが、アフリカ以外では熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫(
Plasmodium vivax)を病原体とする感染有病率や症例発生率の減少が続いていた。
その一方で、2022年にパキスタンで発生した大洪水後のマラリアの大規模な感染拡大によって、この改善傾向が逆転し、三日熱マラリア原虫を病原体とする症例発生数が世界で1,243万例(95%UI:1,070万~1,483万)に達した。
アフリカでは、人口密度の高い地域で早期に感染率のプラトーに達したのに対し、人口の少ない地域では緩やかな改善傾向が続いていることが示された。
著者は、「アフリカ以外では、2015年以降もマラリア感染有病率や症例発生率の改善が続いているが、2022年に三日熱マラリア原虫を病原体とする症例発生数が再び増加したことから、気候ショックに直面した場合のマラリア対策の脆弱性が浮き彫りとなった」「COVID-19関連の混乱は、マラリア症例発生数と死亡者数の増加をもたらしたが、COVID-19流行国がパンデミック中もマラリア対策を優先したこともあって、その影響は懸念されたほど深刻ではなかった」「この疾患に対抗する勢いを取り戻すには、ツールや戦略の改善が急務であることに変わりはない」としている。
(医学ライター 菅野 守)