慢性心不全に対する標準治療へのn-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)の追加投与は、簡便かつ安全に施行可能であり、中等度のベネフィットをもたらすことが、イタリアで実施されたGISSI-HF試験で実証された。n-3 PUFAは不整脈などのアテローム血栓性心血管疾患に対して良好な効果を発揮することが、いくつかの疫学研究および実験的な研究で示されていた。Lancet誌2008年10月4日号(オンライン版2008年8月31日号)掲載の報告。
約7,000例を対象とした大規模なプラセボ対照無作為化試験
GISSI(Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto miocardico)-HF試験の研究グループは、症候性の心不全患者を対象にn-3 PUFAによる罹病率および死亡率の改善効果について検討を行った。本試験はイタリアの326の循環器施設と31の内科施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化試験である。
2002年8月~2005年2月に、標準治療を受けているNYHAクラスII~IVの慢性心不全患者(原因および左室駆出率は問わない)が、n-3 PUFAを1g/日投与する群(3,494例)あるいはプラセボ群(3,481例)に無作為に割り付けられた。フォローアップ期間中央値は3.9年、主要評価項目は全原因による死亡までの期間あるいは心血管疾患による死亡あるいは入院までの期間とした。
小さいながらも有意な改善効果を認める
全死亡率はプラセボ群の29%(1,014例)に対し、n-3 PUFA群は27%(955例)と有意に優れた(補正ハザード比:0.91、p=0.041)。心血管疾患による死亡あるいは入院の発現率も、プラセボ群の59%(2,053例)に対しn-3 PUFA群は57%(1,981例)と有意差を認めた(補正ハザード比:0.92、p=0.009)。
絶対評価では、治療期間3.9年において1例の死亡を回避するのに必要な治療例数は56例であり、1例の心血管疾患による入院の回避には44例の治療を要した。両群とももっとも頻度の高い有害事象は消化器障害であった[n-3 PUFA群:3%(96例)、プラセボ群:3%(92例)]。
研究グループは、「n-3 PUFAは心不全に対する簡便で安全な治療法であり、通常治療の範囲で死亡および心血管疾患による死亡、入院の改善において小さいながらも有意なベネフィットをもたらす」と結論し、「このベネフィットは予想を下回ったが、対象はすでに標準治療を受けており、事前に規定されたすべてのサブグループで一貫した結果が得られている」「イタリアのほぼすべての循環器施設が参加した試験であることから、この結果は数年にわたる多剤療法中に現実に起きていると考えてよい」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)