妊産婦の死亡はほとんどが回避可能であり、それゆえ国連のミレニアム開発目標(Millennium Development Goals; MDGs、http://www.undp.or.jp/aboutundp/mdg/)のターゲットのひとつとなっている。これは、2015年までに妊産婦の死亡率を1990年の1/4に減少させるというものだが、データの脆弱性のため進捗状況のモニタリングに問題が起きているという。
2006年、評価法の改善を推進するために新たなワーキンググループが設立され、2005年度の妊産婦死亡率を改めて推計し、1990年以降のトレンドの解析を行った。Harvard Center for Population and Development Studies(アメリカ、ケンブリッジ市)のKenneth Hill氏が10月13日付Lancet誌上で報告した。
さまざまな方法を開発して解析
Hill氏らは、対象となる国を利用可能なデータのタイプ別に8つのカテゴリーに分けて個々に解析を行うなどさまざまな方法を開発し、これらを用いて同一カテゴリーの国や地域レベル、およびグローバルなレベルで2005年度の妊産婦死亡率を算出し、1990~2005年のトレンドを評価した。
妊産婦死亡のほとんどがサハラ以南のアフリカ、アジアに集中
2005年度の世界の妊産婦死亡数は545,900人、妊産婦死亡率は10万出生あたり402人であった。そのほとんどが、サハラ以南のアフリカ(270,500人、約50%)およびアジア(240,600人、約45%)に集中していた。
1990年から2005年にかけて妊産婦死亡率は年平均2.5%減少(p<0.0001)していたが、サハラ以南のアフリカでは有意な減少は認めなかった。
MDGターゲットの達成には開発途上地域の妊娠/分娩医療の改善が急務
Hill氏によれば、MDGのターゲット「2015年までに妊産婦の死亡率を1990年の1/4に減少させる」の達成に要する妊産婦死亡率の低下率は年平均5.5%であり、現在の2.5%のままでは不可能という。
同氏は、「1990年以降、妊産婦死亡数の減少にある程度の進展がみられた地域もあるが、サハラ以南のアフリカの死亡率は高いままであり、過去15年間に改善のエビデンスはほとんどない」と指摘し、「MDGターゲットの実現には、開発途上地域の妊娠/分娩医療の改善に重点を置いた持続的な施策が急務である」と強調している。
(菅野 守:医学ライター)