イギリスのNHS(国民健康保険制度)では1998年以降、QOF(医療の質とアウトカムの枠組み)が導入され、プライマリ・ケアを担うかかりつけ医の業績を、数値化した指標で評価している。この枠組みの中で2006年4月以降、初診時全患者について、公認された判定表を用いてうつ病重症度を評価するようインセンティブが与えられるようになった。目的は、中等度~重度うつ病患者の過少治療(特に抗うつ薬投与)を改善することにある。しかし、実際には臨床的な判断を優先し、必ずしも判定表の結果に即した治療は行われていない実態が指摘されている。この問題について、リバプール大学プライマリ・ケア部門のChristopher Dowrick氏らが、医師と患者を対象に調査を行った。BMJ誌2009年3月28日号(オンライン版2009年3月19日号)掲載より。
かかりつけ医34人、患者24人を面接調査
調査は、うつ病重症度判定表の標準尺度をルーチンに採用することに関して、医師および患者がそれぞれどのように考えているのかを明らかにするため実施された。
面接調査への協力が得られたのは、イングランドの3つの地域(サウサンプトン、リバプール、ノーフォーク)の38ヵ所のかかりつけ診療所から、34人の医師と24人の患者。
かかりつけ医は懐疑的、患者はエビデンスに期待
結果、医師は評価表の尺度の有効性と有用性については慎重であるべきだと懐疑的だったが、患者は概してうつ病重症度の評価について好意的だった。
両者の意見が一致していたのは、「重症度の評価は全人的ケアの一側面とみなすべき」であるということ。
一方で、医師は、自分たちの経験知や臨床的な判断のほう(“phronesis”)が客観的評価より重要と考えており、客観的評価が診療の人間的な要素を減弱させることを危惧していた。
対して患者は、判定表を医学的判断にとって有効な補助材料として肯定的に受け止めており、アセスメントが十分行われ、医師が病状を真剣に受け止めるエビデンスになると考えていた。
また、医師も患者も「指標操作の可能性」については気づいていた。医師はコスト面から、患者はうつ病の徴候をごまかしたり望ましい転帰を得るために、それぞれ操作する可能性があることを了解していた。
こうした分析を踏まえDowrick氏は、評価ツールに対する医師側の疑念があるにもかかわらず、「これらツールの活用は、プライマリ・ケアにおけるうつ病対策に恩恵をもたらすだろう」と述べている。その理由について「患者は、かかりつけ医の診断は正しく、また、精神保健上の問題を評価・管理するために系統的に努力を払ってくれていると受け止めており、患者からの信頼度は高まっているからだ」と結論。最後に、プライマリ・ケアに携わる医療者へのさらなる教育によって、うつ病重症度判定表の正しい活用は普及するだろうとの期待を述べ報告をまとめている。