これまで、CSFバイオマーカーで、軽度認知障害(MCI)患者における初期アルツハイマー病(AD)を同定することは、小規模単一施設スタディでは可能であることが示されている。スウェーデンSahlgrenska大学病院臨床神経化学研究所のNiklas Mattsson氏らは、大規模な多施設治験を行い、CSFバイオマーカー[測定蛋白:amyloid1-42(A42)、total tau protein(T-tau)、tau phosphorylated(P-tau)]の診断精度を評価し、初期ADを予測できるかどうか評価を行った。JAMA誌2009年7月22・29日合併号より。
軽度認知症患者のAD発症を予測できるか評価
本研究はヨーロッパとアメリカの12施設で1990~2007年の間に行われた各試験を対象とし、2段階構成で評価が行われた。まずカットオフポイントを同定するためのAD患者と健常者対照群が関与する断面調査が行われ、その後MCI患者が関与する前向きコホート研究で評価が行われた。MCI患者は総計750例、AD患者は529例、対照群は304例だった。
MCI患者は2年以上、あるいは臨床的に認知症へと症状が進行するまで追跡された。主要評価項目は、CSFバイオマーカー(A42、T-tau、P-tau)が初期ADだと特定できた感度、特異度、および尤度比とされた。
感度83%、特異度72%、陽性予測値62%、陰性予測値88%
追跡期間中、MCI患者でADと診断されたのは271例、その他認知症と診断されたのは59例だった。
マーカー測定値では、特にA42に関して、かなりのバラつきが見られた。
追跡期間中に、MCI患者でADを発症した患者と、しなかった患者とではマーカーの各値に違いが見られた。A42は、発症した患者のほうが低かったが(中央値ng/L比較:356 vs. 579)、T-tau(同:582 vs. 294)、P-tau(81 vs. 53)は発症群のほうが高かった(P<0.001)。
検査の有用性を示すROC曲線下の面積は、A42は0.78(95%信頼区間:0.75~0.82)、T-tauは0.79(同:0.76~0.83)、P-tauは0.76(同:0.72~0.80)だった。
A42/P-tauの組み合わせおよびT-tauが初期ADを予測する感度は83%、特異度は72%だった。positive LRは3.0、negative LRは0.24。陽性予測値は62%、陰性予測値は88%だった。
Mattsson氏は、「CSFバイオマーカーの診断精度は良好だったが、先行研究の結果ほどではなかった。インターサイトのバラつきが大きく、解析手法と臨床診断法の標準化が必要であることが強調された」と結論している。
(朝田哲明:医療ライター)